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» 2005年04月07日 21時54分 UPDATE

「出版の危機を救え」――金太郎、ネット配信に挑む

「サラリーマン金太郎」の新作がネットで登場する。作者の本宮ひろ志さんは「出版界から干される覚悟」で楽天と直接契約をし、ネット向けに新作を書きおろした。

[岡田有花,ITmedia]

 「真剣に考えれば漫画はまだ売れるはず。そのためにあがきたい」――本宮ひろ志さんの危機感が大ヒット漫画「サラリーマン金太郎」新作のネット配信につながった。

 楽天のコンテンツ配信サイト「楽天ダウンロード」で4月13日から、サラリーマン金太郎の続編が公開される。作者の本宮さんが楽天と直接契約し、出版社を介さずに配信する完全オリジナル作品。紙のコミックを優先しがちな出版社を“中抜き”した格好だ。

 4月7日、楽天の三木谷浩史社長とともに会見した本宮さんは「ネット配信が簡単に成功するとは思っていないし、出版界から干されるかもしれない。しかし、もしうまくいけば、多くの漫画家がネット配信に参加するだろう」と、覚悟と期待を語った。

yu_rakuten_01.jpg 本宮さん(左)と三木谷社長。「漫画家はプロデューサーであり、タレントではない。外に顔を出したら作品は終わりという信念だったが、今回は何とかうまくいってほしいという思いで出てきた」と本宮さん

 「出版は斜陽産業。漫画の売れなさ加減は悲惨」――本宮さんは漫画が置かれた厳しい現状を語る。「出版界には長い間技術革新がなかった。印刷、製本、配本まで構造が完全にできあがってしまっており、それが自らの首を絞めている。これ(新作のネット配信)は出版社ではできないだろうと考え、個人でやる決意をした」(本宮さん)

 とはいえ、出版界も手をこまねいていたわけではない。大手出版社はメーカーなどと組み、イーブックイニシアティブジャパンやパブリッシングリンクといった電子書籍配信企業を設立。PCや携帯端末向けに電子書籍を配信してきた。ただ両社とも、新作を紙よりネットで先に公開することには慎重な姿勢。電子書籍が出版社の“本業”である紙の本の売り上げを侵食する危険性があるためだ。

 「紙の本は、発行部数が増えて一定のコストを上回ったときの利益率が極めて高い。これを侵食するような可能性がある(電子出版のような)ものに関しては消極的にならざるを得ない」――新潮社電子メディア事業室の村瀬拓男室長は、昨年8月の「mobidec 2004」で明かした。パブリッシングリンクの真鍋礼孝副社長は昨年11月のインタビューで、電子書籍は紙の本よりはるかに市場規模が小さいため、書籍の電子化には消極的な出版社が多いと話していた。

 電子化に前向きになり切れない出版業界の姿勢に業を煮やした本宮氏は昨年、三木谷社長と一緒にゴルフした際、「『サラリーマン金太郎』の新作をダウンロード提供したい」と提案。楽天と直接契約し、ネット専用の新作を書き上げた。従来は出版社に任せていた編集作業も自らの事務所で行ったため「ものすごく大変だった。楽天に早く編集部を作って欲しい」(本宮さん)。

 新作が好評なら、紙での出版を検討する。“コミックが1次利用、電子書籍が2次利用”という従来の順番を逆転する形だ。

 本宮さんは「今回の取り組みが何とかうまくいってくれれば」と祈る。「今、仕事のない漫画家がいっぱいいる。もし成功すれば、多くの漫画家が参加した週刊誌を出すこともできるだろう。そうなれば出版界も(電子書籍を本格的に)やろうという気になるのでは」(本宮さん)

 三木谷社長は、出版業界と共存を図る姿勢を強調する。「紙の本がなくなるとは考えていない。紙の“プラスアルファ”として新しい形のネットビジネスを作りたい。出版社も編集技術をデジタルコンテンツで生かして欲しい」(三木谷社長)

オリジナルコンテンツで市場拡大へ

 電子書籍は部数を気にせず発行でき、工程が少ない分原価を抑えて損益分岐点を低くできる。「ネットコンテンツなら1万人見に来てくれればいいが、雑誌は1万部では出せない。単行本化する場合も、紙なら原価だけで250円くらいかかるが、CD-ROM化すれば原価は20〜30円程度で済む」(本宮さん)。

 三木谷社長も「電子書籍のポテンシャルは大きい」と期待する。「電子書籍ならセリフを他の言語に変える作業も簡単で、すぐにでも海外向けに発売できる。オリジナルコンテンツがもっと増えれば、マーケットは広がるだろう」(三木谷社長)。

 スポンサー制という新たなビジネスモデルも提案する。今回、楽天クレジットとファイナンス・オールがスポンサーとして資金を提供しており、両社の広告に金太郎を使うなどといったコラボレーションを想定している。

“ライブドア問題に似た”ストーリー

 新作は全11話で、4月13日以降、隔週水曜日に新コンテンツを配信する。楽天会員なら第1話から4話まで60日間無料で視聴可能。5話以降は有料配信を行う予定だが、料金は未定。「雑誌やコミックの価格を参考に決めたい」(三木谷社長)。ターゲット層は30代から40代のサラリーマン。楽天は人気漫画を目玉に、コンテンツ販売事業の拡大を図る。

 視聴は、楽天が新開発したDRM機能搭載ビュワー「楽天ビューア」で行う。漫画の1コマを1画面に表示し、コマ送りは自動。好きな場所にしおりを入れられ、再生スピードや音量の調節も可能だ。「紙の漫画は1ページに5、6コマ書いていたが、今回は1ページに1コマ。紙の5〜6倍の労力がかかった」(本宮さん)

yu_rakuten_02.jpg 静止画に効果音だけ付いており、慣れないと違和感がある (C)本宮ひろ志

 コンテンツは静止画だが、絵が上から下に流れたり、セリフの吹き出しが発言順に表示されたりといった動きが楽しめる。ドアの締まる音や風の音、足音などの効果音も入っている。「声優さんに音声も吹き込んでもらおうかと思ったが、お金がかかる上に陳腐なアニメのようになってしまうのでやめた」(本宮さん)

 ストーリーは、金太郎が外資ヘッジファンドと戦い、1兆3000億円稼ぐというもの。「最近話題になっているライブドア関連の問題と似てしまったが、全く意識していないし、重なる部分があったらイヤだ」(本宮さん)

yu_rakuten_03.jpg 本宮さんはライブドア問題に言及し、「堀江さんは子どもがおもちゃをねだっているようにしか見えない。そもそも、フジテレビのオーナーが堀江さんになろうが日枝さんになろうがどうでもいい。もっと重要なニュースがたくさんあるのに、メディアがそれを報道せず、こんな問題で騒ぐのが全く理解できない」(本宮さん)

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