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» 2006年12月17日 09時44分 UPDATE

寄稿:白田秀彰氏Winny事件判決の問題点 開発者が負う「責任」とは (1/3)

Winny開発者の有罪判決について、インターネットと著作権に詳しい法政大学社会学部の白田秀彰助教授は「不当判決というより『しょうがないねぇ……判決』」だと述べ、ソフト開発者が負う責任の拡大と、幇助の成立条件などに問題点を指摘する。

[白田秀彰(法政大学),ITmedia]

12月13日のWinny開発者による幇助に関する判決について

 12月13日の午前、ファイル交換ソフトWinnyの開発公開に関する開発者の刑事責任を審議する裁判の判決が出された。私は、ITmediaから本件に関する寄稿依頼をうけ、さらに前日に京都新聞からコメント依頼されたことや、CPSR(社会的責任を考えるコンピュータ専門家の会)の山根信二氏から記者会見時にマスコミに私のことを紹介する旨うかがっていたことから、きっとジャンジャン電話がかかってきて大変なことになると覚悟し、仕事着に着替えて机に座って電話を待っていた。ところが京都新聞から予定通り電話が一本来ただけで平穏な冬の昼下がりになって、私はなんともフンワリした気分のままお茶をすすってたりしてたわけ。

画像 12月13日、判決後に行われた記者会見の様子

 少しすると、判決後の様子などがネットを経由して伝わってきた。この記事でもみられるように、「不」「当」「判」「決」というA4用紙に一字ずつ印刷された文字を前に、金子氏と弁護団は徹底抗戦を表明したらしい。私は金子氏に会って握手したことがあるし、複数の人から私と金子氏の容貌や物腰が似ていると言われているし、さらに私も現行著作権制度がなんだかヘンだと思っている点でも共通しているので、金子氏を応援したいと思っている。だから私の意見には、かなり金子氏擁護のバイアスがかかっている。とはいえ、私は、本判決が「不当」だとは思わない。もし、私がでっかい紙に文字を書いて裁判所から走り出てくるなら「しょうがないねぇ……判決」と書く。

 本件判決の解説やその背景については、裁判所で傍聴していた佐々木俊尚氏の記事も参照していただきたい。この記事を書かなくてもいいくらい的確にまとめてある。でも、ここでこの原稿を終えてしまうとITmediaが困ったことになるので、法律の先生らしく、そもそも有罪になるということはどういうことなのか、この裁判でなぜ金子氏が有罪となったのか、今後の裁判で有罪が覆ることがあるのだろうか、そして金子氏が名誉回復するためにはどうすべきかについて書いてみようと思う。たぶん、他の誰も書かないだろうから。

 まず、金子氏が争っているのは、著作権法に関する事件ではない。すでに有罪判決が出ている二つの著作権侵害事件(関連記事参照)(これら事件を以下「侵害事件」と表記)に対して、金子氏が手がけたWinnyの開発や公開が幇助(ほうじょ)となりうるかを争っている事件。だから、本件は完全に刑法の領域の話で、金子氏の著作権に対する見解とか、彼の思想の社会的意義とかは、基本的に関係ない。だから、本件において著作権制度に対する金子氏の見解や信念といったものが論点となっているのなら、検察と被告側双方における論点ずらしの攻防の副産物だろう。

 さて、話が刑法の領域の話ということになると、次のような背景を理解しておいてもらいたい。

(1)警察は、処罰を与える法律の条文に記されている条件(=構成要件)に合致した行為をしたと疑われる人(=被疑者)を逮捕しなければならない。また、逮捕の理由となった事実について書類を作成し検察に報告しなければならない(=書類送検)。それが仕事。

(2)検察は、被疑者を逮捕した警察から送られてきた理由や証拠を検討し、それが構成要件に合致していると考えたなら、裁判所に検察の判断が正しいかどうかを検討してもらわなければならない(=起訴)。それが仕事。

(3)裁判所は、起訴内容について検察から説明をうけ(=冒頭陳述)、被告人や弁護士などからも意見や証拠などをうけつつ(=証拠調べ・証人尋問)、起訴内容の信ぴょう性や検察が主張している罰の重さ(=論告求刑)が妥当かどうか検討し、適切な理由に基づいた適切な罰を内容とする判決を下す。それが仕事。

(4)裁判所は、提出された事実とされている事柄について、証拠等から信ぴょう性を判断し、法廷内で採用された「事実」に基づいて判断する。だから、検察と被告側のいずれもがそれぞれ「真実はこうなのに……」と思っていて、仮にそれが真実であるとしても、証拠によって立証されなければ、裁判においてそれら真実は存在しない。だから、もちろん刑事裁判というのは真実を追及して判決されるよう努力しているのだけど、実際には手続きを経て採用された「事実」に基づいて判決される。

 だから、証拠によって裁判官を説得しきれなかった「真実」があるからといって、「不当だぁ!」とか「裁判官はアホだぁ!」と言われても、それは裁判官が気の毒というものだ。裁判は「遊戯王」とか「ポケモン」に似ているところがある。カードが揃わなくて負けたら、それはカードを揃えられなかったほうが悪い。こうしたゲームにおいて、裁判官は公平な審判者でなければならない。「大岡裁き」とか「人情判決」というのは、近代の裁判制度においては、法律の機能を狂わせる害悪にしかならない。

 このあたりで、よかったら拙文「インターネットの法と慣習──刑事分野についてかんがえみるI」を読んでもらえるとありがたい。以下の説明が楽になる。

 ここで、本件について考えてみれば、別の法廷で著作権侵害の事実は確定している。だからここを争っても仕方がない。本件で論点になるのは一点のみ。金子氏によるWinny開発や公開が、侵害事件に対して刑法の定める「幇助」の要件に該当するか否かということだけ。

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