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IBM、ナノコンピューティング研究で大きな前進

» 2007年08月31日 10時27分 公開
[ITmedia]

 米IBMは8月30日、ナノテクノロジーにおける2つの重要な科学的発見を発表した。この発見は製品化にはまだ遠いものの、いつか数個の原子や分子で構成されるデバイスを実現するかもしれないという。

 この2つの発見に関する論文は31日のScience誌に掲載される。

 1つ目の研究論文は「Large Magnetic Anisotropy of a Single Atomic Spin Embedded in a Surface Molecular Network」というタイトルで、個々の原子の磁気異方性の調査における進歩を説明している。

 異方性は、磁石が特定の向きを維持できるかどうかを決める。磁石が「1」または「0」を表せるようにするため、データを格納する上で重要な特性となる。これまで、単一の原子の磁気異方性を測定することはできなかった。IBMの研究者は特別な走査型トンネル顕微鏡を使って、個々の鉄原子を操作し、特別に用意した銅表面に並べ、個々の原子の方向と磁気異方性の強さを測定した。

 さらに研究を進めれば、確実に情報を格納できる原子の集まり、あるいは個々の原子で構造を作ることも可能になるかもしれない。それができれば、iPodくらいの大きさのデバイスに、約3万本の長編映画、あるいはYouTubeのコンテンツを丸ごと格納できるとIBMの研究者は述べている。非常に小さなデバイスの実現にもつながる可能性があるという。

 2つ目は、分子の外枠を崩壊させることなく動作する初の単分子スイッチの開発だ。この成果については「Current-Induced Hydrogen Tautomerization and Conductance Switching of Naphthalocyanine Molecules」という論文で解説されている。

 この単分子スイッチは、ナフタロシアニンの有機分子内の2個の水素原子を使って、1つの分子の「オン」「オフ」状態を切り替えられる。単分子内でのオン・オフ切り替えはこれまでも実演されていたが、切り替え時に分子の形が変わってしまうため、コンピュータチップの論理ゲートを構築するには適さなかった。

走査型トンネル顕微鏡で見た、「オン」状態と「オフ」状態のナフタロシアニン分子
2個の水素原子が位置を変え、オンとオフを切り替える

 論理ゲートはコンピュータチップ内で電流の流れを切り替えるスイッチが集まったもので、電子回路の構成要素となる。非常に微細な単分子スイッチは、回路を小型化し、プロセッサに集積される回路を増し、性能向上につながる可能性がある。IBMの研究者は、この単分子スイッチはいつか、現在の最速スーパーコンピュータ並の速度のコンピュータチップや、針の先ほどの大きさのコンピュータチップを実現するかもしれないと述べている。

 IBMの研究者は、次のステップはこれらの分子で回路を構築すること、これらをネットワーク化して分子チップを構成する方法を見出すことだとしている。

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