ITmedia NEWS > ネットの話題 >

“埋もれた職人”に光を――ひろゆき氏に聞く「ニコ動(RC2)」(1/2 ページ)

» 2007年10月26日 11時37分 公開
[岡田有花,ITmedia]
画像 ニコニコ動画(RC2)

 「ニコニコ動画」に無名の“職人”が集まり、新たな創作が次々に生まれている。「初音ミク」でオリジナル曲を作る作詞作曲家、3Dアニメを発表する動画作家、ギター・ベース・ピアノを1人でセッションする音楽家、「ゼロによる割り算」の意味を教える先生――対価も求めず表現を続ける彼らに、「才能の無駄遣い」という賛辞が贈られる。

 動画職人たちのモチベーションは、作品を見てくれる他ユーザーからの反響だ。再生数とユーザーからのコメントが、彼らの創作の糧になる。

 「ニコニコ動画は職人さんとユーザーさんが集まる土台」と、運営企業・ニワンゴ取締役の西村博之(ひろゆき)氏は言う。10月にリニューアルした新版「RC2」には、職人たちとユーザーが、一緒になって遊べそうな新機能を詰め込んだ。みんながニコニコする機会が増えればうれしいという。

「ニコスクリプト」で動画ゲームも

画像 ひろゆき氏

 RC2は「ニコニコ史上初の“前向きな”リニューアル」。投稿者は動画をアップするだけ、閲覧者はそれにコメントを付けるだけ――という従来の機能を大幅に拡張し、投稿者が自分専用コメントをアップロードできる機能や、迷惑コメントを非表示にする機能を搭載した。11月上旬には、投稿者と視聴者が一緒に“遊べる”目玉機能「ニコスクリプト」(NICOScript)を実装する。

 ニコスクリプトは、コメント欄に専用コマンドを入力すると、動画にさまざまな機能を付けられるというものだ。「要はコマンドなんだけど、かっこ付けて『スクリプト』という名前にしてみた」。まずは以下のような機能から実装していく。

 (1)投稿者が動画を丸い「窓」でくりぬいて一部分だけ見せ、その窓を視聴者が「上」「下」「左」「右」のコメントで動かせる「窓」、(2)投稿者が動画上に丸い玉を起き、「窓」と同様その玉を視聴者が動かせる「玉」、(3)特定の言葉が投稿されると「当たり」などとメッセージを表示できる「クイズ」、(4)視聴者に対して特定の数種類の言葉の投稿を促し、その言葉が投稿された回数を集計する「アンケート」(5)再生中に他の動画にジャンプできる「動画ジャンプ」、(6)コメントを目立たせられる「コメント・アート」――などだ。


画像 ユーザーの「上」「下」「右」「左」のコメントで丸い部分が動く「窓」
画像 特定の言葉を投稿してもらってその言葉が投稿された回数を集計する「アンケート」

 発想のきっかけは「動画でゲームのようなものを作れるようにしてみたい」と考えたこと。例えば「窓」を使えば、動画上の隠れた場所から“答え”を見つける宝探しゲームを、「玉」機能なら、玉を動かしてゴールに入れるゴルフゲームのようなものを作成可能だ。動画ジャンプ機能を使えば「『かまいたちの夜』のように、選択肢によって異なる動画に飛べるサウンドノベルのようなゲームも作れるのではないか」とひろゆき氏は言う。

 ただニコニコ動画には既に、コメント機能を駆使してゲームのような動画を作っているユーザーもいるという。アンケートやクイズ、コメント・アートも、ニコニコ動画で既に行われていたものをシステムとして取り入れ、利用しやすくしたものだ。「ユーザーさんは、思ってもみなかった意外な使い方を発明してくれる。ぼくらの想像力は、既に超えられてる」

 スクリプトは10月18日に実装予定だったが、11月上旬に延期した。「開発環境では問題なく動いているのだが、実環境ではまだ負荷に耐えられない」というのが理由。「リリース後は、ゲームを作れる人が、クリエイターとしてニコニコ動画に参加してくれるとうれしい」

「動画を見るだけならGyaOでいい」

画像 ニコニコ動画では「初音ミク」が大ブームだ。「数万本しか売れていないソフトであれだけ騒げるのはすごい。マイクロソフトの『Office』ははるかに多く売れてるのに、誰もそんなに語ってない」(ひろゆき氏)

 職人たちの創作を支援していきたいと、ひろゆき氏は言う。「動画それ自体を見るならGyaOに行けばいいと思うし、ニコニコ動画でGyaOと同じことをやっても仕方ない。ニコニコは、誰かが作ったものを与えられて楽しむんじゃなくて、自分たちがもの作りをして楽しめる場にしたい」

 ニコニコ動画は、ブログシステムのような「創作のプラットフォーム」になりつつある。「Movable Typeは、コメントやトラックバックの仕組みで文章を書くモチベーションを高め、みんながブログを書くようになってネットに面白い文章も増えた。映像や音楽に関してはそういう仕組みが少なかったけど、映像にみんなで茶々を入れられるというニコニコ動画は、ブログのような仕組みを映像に取り入れられたんじゃないかな」

 「埋もれた才能」に特に光を当てたいという。テレビなどメジャーなメディアには出てこない、ほんの趣味程度で作った作品がたくさん投稿され、ニコニコ動画に集まるユーザーのうち、誰か1人の心にでも届けば面白い。

 例えば「組曲 ニコニコ動画」(ニコニコ動画で人気の楽曲を組み合わせたメドレー)をカラオケで歌い、「いい声」と人気が出た「いさじ」さん。「いさじさんは多分、本職の歌手の方ではないし、あの野太い声は今のメジャーレーベルの売れ筋ではないだろう。でも彼の声が好きだと思う人がニコニコ動画には1万人ぐらいはいる。彼のような人と、彼の声を聞きたい1万人とが出会えれば、みんな幸せになれるかなぁと」

「映画祭」「ニコペディア(仮)」でニッチを掘り出す

 みんなでニコニコできる動画を掘り起こすために――動画コンテスト「国際ニコニコ映画祭」も11月から開く。手塚眞さんを審査員に迎え、月に1回ペースで優秀作を決める予定だ。

画像 数学動画「なぜ0で割ってはいけないのか? リンゴの分配から体の公理まで」が最近人気を集めた。「すごく面白かった。これを見て久しぶりに勉強しちゃいました」(ひろゆき氏)

 「面白い動画を集めてみんなで『これ面白いよね』と紹介する――ってのをやりたいと思ってて。『国際映画祭』をいう大層な名前を付けてみました。手塚さんが(めったに引き受けないという審査員を引き受けるなど)ノリノリだったのに驚いた」(ひろゆき氏)

 「とかち」「MAD」など、ニコニコ動画でよく使われるキーワードを解説したり、他の動画の影響を受けて生まれた動画の“進化の系譜”を確認できたりする辞典も、年内をめどに作成する計画だ。「名前は『ニコペディア』とか『ニコニコ用語の基礎知識』とか言っているけどまだ未定」

 ニコニコ動画では、他ユーザーが作った動画に触発されて新しい動画が生まれることも多く“元ネタ”を知らないと楽しめない部分もある。「流行がすごく早い上、どうしてもPC好き・理系の人が好きなコンテンツが中心で、一般の人たちが付いて来れない部分がある。映画祭や用語辞典など、もっと一般的なコンテンツを提示できるルートを増やしていきたい」

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.