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「神ツール」――初音ミク踊らせるソフト「MikuMikuDance」大人気

» 2008年03月10日 09時36分 公開
[岡田有花,ITmedia]
画像 MikuMikuDance初期画面

 「神ツール」「本当に無料でいいの?」「振り込めない詐欺(笑)」――「初音ミク」の3Dモデルを自由に踊らせることができるソフト「MikuMikuDance」がネットユーザーを驚かせている。初心者でも簡単に、本格的な3Dアニメを作成可能。2月24日の公開直後からネット上で話題になり、ダウンロードページは3月10日までに11万を超えるページビューを記録。同ソフトで作成した動画が「ニコニコ動画」に300件以上投稿されている。

 開発したのは、趣味でプログラミングを楽しんでいるという樋口優さん(ハンドルネーム)。大反響に驚きつつ、今後も無償公開を続け、寄付を受け取る気もないと話す。

 「もともと無料のツールと素材だけで作ったソフト。『お金を払ってもいい』と思うくらい気に入っていただけたら、ぜひこのソフトですばらしい動画を作って公開してもらい、私をニコニコさせてほしい」

マウス操作だけで3Dダンス動画を

画像 「ボーン」を選んでマウスで選択して動かす。側面から見た図への切り替えもワンクリックで可能

 MikuMikuDanceは、樋口さんが運営するWebページ「VocaloidPromotionVideoProject」からダウンロードできるフリーソフトだ。約1Mバイトとコンパクトで、一般的なPCで軽快に動く。「わたしのPCが6年前のもの(Pentium 4/1.5GHz、RADEON 8500)なので、それでも何とか動くように作ると、最近のPCでは必然的に軽くなるようです」

 起動すると画面中央に3Dの初音ミクモデル(「あにまさ」さん作)が登場。マウス操作で自由に動きを付け、アニメ化することができる。例えば左腕を動かすには、(1)左腕の「ボーン」(パーツ)を指定し、(2)マウスで腕を動かし、思い描いた位置に腕を配置、(3)その状態で保存する――といった調子で1フレームずつ作成し、つなげてアニメにしていく。上からの俯瞰や下からのあおり、側面、背面から見た図の切り替えや、視点の遠近調節も簡単にできる。

画像 表情も自在に変化させられる

 リップシンク(口パク)も可能で、ミクの歌を保存したVSQファイル(初音ミクなど「VOCALOID」専用MIDIファイル)を流し込めば、歌詞通りに自動で唇を動かせる。まばたきさせる機能や、目や眉の角度を変えて表情を変える機能、ミクの動きに追随して自動で影を付けられる機能も備えた。

 任意のAVIファイルを背景に表示しながら動画作成が可能。モデルとなるダンス動画を背景に表示しながら、ミクモデルに同じ動きをさせる――といった作業に便利だ。

Webで公開されているミクの3Dモデルを動かしてみたかった

 「この3Dモデルをどうしても動かしてみたい」――Web上で無償公開されていた、「あにまさ」さんが作った初音ミクの3Dモデルとの出会いが最初のきっかけだった。ニコニコで他ユーザーが作った3Dの初音ミク動画を見るうち、「自分もこのミクで、3D動画を作ってみたい」と思ったという。

 無償の3Dソフト「Blender」を利用し、あにまささん作の3Dミクモデルに「ハルヒダンス」(ハレ晴れユカイ)を踊らせ、ニコニコ動画で公開した。3D動画をまともに作ったのも初めてなら、ニコニコ動画投稿したのも初だが、この動画は注目を集め、人気ランキングにも入った。

画像 利用法の動画。コメントで「金」と入力すると「リン」に、「神」と入力すると「ミク」と自動変換されるよう、樋口さんが設定している。動画作成に利用しているのはフリーソフト「DxCaptur」と、Windows付属の「ムービーメーカー」で、それぞれ無料だ。「PCの性能が高くないので、CPUの処理能力を上げるために常駐ソフトを全部落としたり、Windows XPの表示スタイルを『XP』から『クラシック』にしたりと、苦労しながら編集した」

 「Blenderはいいソフトだが、操作性に難がある」。初めての動画作成で苦労した経験から、初心者にも使いやすい3D動画作成ソフトを作りたいと考え、MikuMikuDanceの開発にとりかかった。

 中学生のころからゲームのプログラムをいじるなどしてきたが、プログラミングを本格的に学んだことはなく、本もほとんど持っていない。大学も仕事もプログラミングとは無縁で、あくまで趣味だという。

 3D動画作成ソフトの開発は初めてで、ネットで地道に調べながらプログラミングしていった。「虚数やら偏微分やら大学数学のオンパレード」の物理計算に苦労したという。開発ソフトは「VisualC++ 2005 Express Edition」「DirectX7 SDK」と、それぞれ無料だ。

 昨年の大晦日に開発を始め、50〜70時間ほどで完成。クリプトン・フューチャー・メディアが初音ミクを利用したゲームなどプログラム作品作成を解禁したのを確認した上で、2月24日にダウンロード公開。ソフトの利用法を2本の動画にまとめ、ニコニコ動画に投稿した。

 「まさか、こんなに反響をもらえるとは」

「神すぎる」――公開直後から大人気

 ソフトの利用法を説明した動画の10日までの再生数は、1本目が約13万、2本目が約5万。「すばらしいツール」「神すぎる」など、絶賛のコメントが乱れ飛ぶ。「初めは“褒め釣り”かと思ったが、実際に動画を作ってくれる方々がいるのを見て、本当にうれしく思う」

 ソフトを使って作った動画もニコニコ動画に次々に投稿されていった。数秒間の簡単な動きから、初音ミク人気曲を踊りながら歌わせる動画、「ハルヒダンス」「ネギ踊り」などニコニコ動画で人気のダンス動画、「ストリートファイターシリーズ」「THE IDOLM@STER」などゲームのキャラクターの動きの再現、ニコニコ動画で人気のダンサーの踊りとミクの3D動画を重ねた“マッシュアップ”動画などさまざまだ。

 中でも多いのが、「ウッーウッーウマウマ」の空耳とかわいらしいダンスで人気になった楽曲「ウッーウッーウマウマ(゚∀゚)」(スウェーデンのアーティストCARAMELLの曲で、原題は「CARAMELLDANSEN」)を踊らせた動画だ。動きが単純で作りやすい点が受けているようで、MikuMikuDanceのクリエイターたちは「課題動画」と呼び、それぞれのセンスでこの踊りを再現する。


画像 人気CMの再現も
画像 波動拳など「ストリートファイター」シリーズの必殺技を再現

画像 「ウッーウッーウマウマ(゚∀゚)」は「課題曲」という扱いだ
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 「数週間前、3Dソフトを買ったが2時間で挫折。このツールなら3Dアニメーションできそう」「3D歴90分の俺がウマウマさせて遊んでみたよ!!」――3D動画作成初心者の投稿も多い。不自然な動きのまま動画を公開し、見知らぬ視聴者からコメントで改善点を教えてもらって作り直して再アップする、といったコミュニケーションも生まれている。

 「3Dを始めたばかりという人がかなりの質の物を作っていらっしゃる。今後、もっと本格的な3D動画を作ったり、プロを目指される人への橋渡し的ソフトになればいいなぁ、なんて思う」

ネギを持たせる機能も

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 ソフトのアップデート時に、両手にネギを持たせたり、頭にネコ耳を付けたりできる「アクセサリ」機能を追加した。「興味を持っていただいたことへのお礼の気持ちを」と付けた機能だ。今後は、ステージや照明、カメラワーク、字幕などを時間指定して付加できるソフトも作成予定だ。

 「MikuMikuDanceでこれだけの反響をもらったので」――樋口さんは2月末、楽曲作成ソフト「初音ミク」も購入。好きな楽曲を歌わせ、個人的に楽しんでいるという。

“振り込めない詐欺”でも寄付は受け付けない

 ソフトは有償化する予定はなく、寄付を受け付けるつもりもない。「開発に使ったソフトも全部無料だし、3Dモデルも無料で公開してくれたから制作できたソフト。Blenderも無料なのにMikuMikuでお金を取ろうなんて100年早いと思う」

 だが「お金を払いたい」というユーザーは多く、MikuMikuDance使い方解説動画に「振り込めない詐欺」というタグが付くことも。「作者のメールアドレス宛にAmazonポイントを送れないだろうか」など、なんとか寄付はできないか真剣に考えるユーザーもいる。

 「寄付してもいいと言ってもらえるのはたいへん光栄だが、それほど気に入っていただけたら、ぜひこのソフトを使ってすばらしい動画を作って公開してもらい、私をニコニコさせてほしい」

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