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創りたい、伝えたい――ネットと個人は止まらないおもしろさは誰のものか(1/2 ページ)

» 2008年03月14日 14時17分 公開
[岡田有花,ITmedia]

 インターネットが万人に、発表の場を提供している。

 「発表の場」というと、大げさかもしれない。誰かに伝えたいことや見せたいもの、日々の雑談や何気ない生活の記録が、ごく自然に、ネット上に公開されている。

 鼻歌のように何気なく書き留める人もいれば、誰かと盛り上がるためのネタをアップする人もいる。力を入れた「作品」を、無償で公開する人もいる。

テキストサイト、ブログ、SNS

 1990年代半ばごろから、無名の個人が「ホームページ」を作り、発信を始めた。テキストサイトや個人ニュースサイトがアクセスを集め、個人が「メディア」になった。

 「2ちゃんねる」に集まる個人が海外メディアを動かす。有名人やアニメをネタに、アスキーアートやイラスト、アニメをみんなで2次創作し、面白がる。今で言う「マッシュアップ」は、このころすでに生まれていた。

画像 02年には中国で開発された「先行者」という人型ロボットがネットの話題をさらい、先行者の嘘ニュースを伝えるテキストサイトやマッシュアップ画像、Flashゲームなどがたくさん作られた

 個人が「伝える」方法は、どんどん簡単になっていく。95年に最初の「ホームページビルダー」が発売。90年代終わりごろには、フォームに入力するだけで日記を付けられるサービスが流行。02年ごろからブログが登場し、04年からSNSが爆発的に普及した。携帯電話から投稿する仕組みも一般化し、写真や動画も、手軽に公開できるようになった。

 「ネットを活用して意見を述べよう」「自分の作品を世界に公開しよう」。そう肩をいからせる人もいる。だが大半は気負いなく、まるで友人に話しかけるように、鼻歌を歌うように、日記や写真をネットにアップロードする。力が入っていてもいなくても。プロの作品もアマの鼻歌も、同じ「インターネットの1ページ」を構成する。

 商用の音楽やアニメも、個人の手で“流通”し始めた。友人にCDやビデオを貸すような感覚で、掲示板サイトやP2Pファイル交換ソフトにアニメや楽曲を載せ、見知らぬ人に提供する。プロが法律と業界ルールを守り、対価を取って流通させてきたパッケージコンテンツが、それを無視した個人によって、パッケージなしの生データで、無料でネット上に流れる。

YouTubeで「プロの番組」と「素人の鼻歌」が一列に

 流れを決定的に加速したのは動画サイトだった。YouTubeやニコニコ動画が、個人の発信の可能性を豊かに広げた。

画像 YouTube

 「ディナーパーティーで撮影した動画を、参加者に配りたい」――CEOがそんな個人的な動機で開発したというYouTube。2006年から日本でも急成長を始める

 ユーザーがアップロードした動画を、Flash形式で公開でき、ワンクリックで再生できる。簡便なユーザーインタフェースが受け、多数のテレビ番組やミュージックビデオ、一般ユーザーが制作した動画が、個人の手によって、時に著作権を無視した形で、次々に投稿されていった。

 プロの制作した番組の無断コピーと、素人の撮影した“自己PR番組”やペット動画が一画面上に並ぶ。高級機材と人材で、お金と時間をかけた作品も、980円のWebカメラで撮影し、編集なしでアップした素人の作品も同列。素人作品がプロをしのぐアクセスを稼ぐことも珍しくない。

「ニコニコ動画」が2次創作に火を付ける

 06年末。投稿動画の上にコメントを付けられる「ニコニコ動画」が登場。投稿動画への反応がコメントを通じてダイレクトに届く仕組みが、個人の創作・投稿意欲に火を付けた。

画像 ニコニコ動画

 お気に入りの番組を無断でアップし、ファン同士でコメントによるコミュニケーションを楽しむ。もしくは、自作の動画を投稿し、反応をもらう――YouTubeや2ちゃんねるでも行われていた楽しみ方に加え、個人が既存のコンテンツに“創作を付け加える”ことが流行し始めた。

 アニメなどの一部を無断で借用し、オリジナルのストーリーや動画、音声と重ねたり、アニメ同士を組み合わせる。アニメのオープニングダンスを自分で踊り、動画にして投稿する。有名楽曲を自分で演奏する。プロのコンテンツをベースにした素人の創作が次々に発表され、“作家”たちは視聴者からのコメントを力に、創作意欲を高めていく。

 テキストサイト時代の「マッシュアップ」文化と似ている。だが、ベースとなるネットユーザーの数と発信の手軽さは段違い。創作と発信は一気に一般に広がり、広さと深さを増していく。

 07年9月には、非商用ならほぼ自由に使えるキャラクター付き歌声作成ソフト「初音ミク」が登場。ミクを利用した完全オリジナルの楽曲制作やアニメ制作が大流行し、ミクで作られた人気楽曲にアレンジ版や、プロモーションビデオなどといった2次的な創作が次々に発表されていく。

花開くケータイ小説

 携帯電話上では、「ケータイ小説」という新たな創作が花開いた。無名の個人が携帯電話で書き、見知らぬ誰かが携帯電話で読む。「魔法のiらんど」には100万以上、「モバゲータウン」には38万以上のケータイ小説が投稿されている。

 オリジナルの音楽を投稿するインフラも整い始めた。モバゲータウンの楽曲投稿コーナーには、1万5000以上の作品が投稿されている。

 着うた掲示板も流行した。中高生たちはお気に入りの曲をCDからリッピングし、着うた掲示板にアップ。見知らぬ誰かに無料でダウンロードさせている。「無料のほうがいいじゃん」「着うたサイトじゃ売ってない歌が多いから」――もちろん違法行為だが、彼らの多くに、悪気はない。

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