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» 2008年03月17日 06時47分 UPDATE

「宇宙世紀は来ない」 ユーザーが作る“ゲームの次世代”

「スペースコロニーの量産は、高度成長期の土建業のイメージ」――宇宙世紀の未来図はもはや過去の物。高度成長期を抜けた「知識経済の時代」は、ITの進化とユーザーの力が、見えない急成長を形作る。

[岡田有花,ITmedia]

 「宇宙世紀も“のび太の未来”も来ないだろう」

 機動戦士ガンダムやドラえもんが作られた高度成長期。経済成長の中心は「もの」。「スペースコロニーの量産や、大人になったのび太が住む高層アパートは70年代の土建業のイメージだ」

 だが今、成長の中心は知識経済にシフト。データの世界で、ディスプレイの向こうで、めまぐるしい変化が起きている。「SF的な世界が意味を失っている。現実の方が変化が早い」

 この10年でPCの処理速度は飛躍的に上がり、価格も大きく下がった。一般ユーザーも家庭のPCで質の高いゲームを作ってネットで配布できるようになり、それが世界で人気を集めるケースも出てきた。ゲームメーカーはプラットフォームを開放し、ユーザーによるイノベーションに期待をかける。

 10年後の未来、オンラインゲームはいったい、どんな進化をとげているのだろうか――3月14日に開かれたOGC(オンラインゲーム&コミュニティーサービスカンファレンス)でゲームジャーナリストの新清士さんは、「富の未来」(アルビン・トフラー)、「波乱の時代」(アラン・グリーンスパン)、「民主化するイノベーションの時代」(エリック・フォン・ヒッペル)、「ポスト・ヒューマン誕生」(レイ・カーツワイル)など、未来について語った米国発の書籍のエッセンスを交えながら、ゲームの未来を展望した。

地球シミュレータ並みのPC、12年にも登場?

 「1998年の日本の街並みと2008年の日本の街並み」「98年に20万円だったPCの性能と、今20万円のPCの性能」――この2つで差がより大きいのは、後者だろう。

 ここ10年で世界は変わった。変化の幅は、物質社会よりも情報社会のほうがはるかに大きい。「年率6%の高度成長期は物質的な成長で目に見えるが、3%の低成長期は目に見えない成長が起きている」と、米連邦準備理事会(FRB)前議長のアラン・グリーンスパン氏は指摘する。

 発明家レイ・カーツワイル氏によると「世界は指数関数的に成長している」という。IT分野で言えば、PCの処理能力は劇的に上がり、例えば「Onyx」(グラフィックスワークステーション)は90年代には数億円もしたが、同等の性能は今、家庭用PCで実現できている。

 最先端の技術が10年で一般に普及するとすれば、02年に稼働した「地球シミュレータ」レベルの処理能力を持つPCが、そう遠くない未来には一般家庭に入ることになる。あり余るコンピューティング能力は、どう使われていくだろうか。

 カーツワイル氏の予測では2020年までにコンピュータの処理能力は人間に匹敵。2037年に人間を超える「ポストヒューマン」が誕生すると展望する。そうなれば、この世にある情報すべてを処理しても処理能力が余るだろう。「1時間で1世紀分の仕事ができる時代になる」(新さん)

 ゲームの世界で言えば、90年代に大きなコストをかけて開発したシステムも、10年後の今は、きわめて低コストで維持できる。97年当時は多大な投資が必要だった「ウルティマオンライン」は極めて低コストで維持され、EAの収益に貢献しているという。

 「自作PCでSecond Lifeサーバが動くまでそう時間はかからないだろう。バーチャル空間は、果てしなく増えていく」

「ニコニコ動画」で増えた豊かさ、経済的に測れない

 現代は「限りなく安価に、山のようなエンターテインメントが作れる時代」だ。PCの処理能力向上と低コスト化、人件費の低い海外への開発委託の加速で、開発コストが下がり、ブロードバンドの普及で流通コストも大きく下がった。

 技術と処理能力のめまぐるしい進化が、人の生産能力を上げた。だが「生産効率が上がったことで発生した価値は、GDPに参入されていない」。

 無料で享受できるエンターテインメントも増え、“幸せの総量”は増えているはずだが、それも数字には現れない。「ニコニコユーザーがムービーを投稿するために使ったカロリーの合計は相当なもの。それが他のユーザーに見られることによって経済価値が発生し、社会的な富は増えているが、その意味を今の指標では測ることができない」


“勝手ガンダム”ゲーム――作り始めたユーザーたち

 ゲーム企業が開発環境を公開し、ユーザーのイノベーションに期待する例が増えている。無料の開発ツールも増え、一般ユーザーのPCがハイスペック化して開発環境も整う中で「ユーザーが生産者に切り替わり、勝手にコンテンツを補充してくれる」。アルビン・トフラー氏が提唱した「プロシューマー」(生産消費者)だ。

画像 YouTubeに投稿された、Gundam Modの映像

 06年末。「Gundam Mod」という質の高いガンダムゲームが中国語圏からリリースされた。ユーザーによって創作された、権利者非公認のゲーム。2003年に公開された、艦隊戦闘ゲーム開発環境「Homeworld 2」で作成されたもので、グラフィックスの質も高く「すごく面白い」(新さん)という。「バンダイナムコが買って商品化してくれないだろうか」

 北米では、メーカーがゲームの開発環境を一部開放し、ユーザーが「Mod」(Modifyの略)と呼ばれるオリジナルゲームを作成するのが一般的になっているという。Mod開発者たちは、開発したゲームのデモ映像をYouTubeで公表して視聴者からフィードバックを受け、改善していく。ユーザーが作ったゲームを配布できるXbox 360の「Xbox LIVE Community Games」も、その発想の延長線上にある。

YouTubeやニコニコ動画がゲーム開発の国境を消す

画像 ニコニコスイッチ

 YouTubeによって、ユーザーのゲーム上でのクリエイティビティーが国境を越えている。記憶に新しいのは「Forza Mortorsport 2」(Xbox 360)の“痛車”映像。日本人ユーザーが同ゲームのペイント機能を使ってアニメやゲームのキャラクターを車体に見事に描き、その映像がYouTubeを通して世界に広まり、北米でもニュースとして取り上げられた。

 ニコニコ動画も「ゲーム開発の国境」を薄れさせている。2Dの図形を描いて動かせる無料の物理演算ソフト「Phun」が、ニコニコ動画で話題になった。スウェーデンの大学生が開発したソフトだが、新さんの小学生の息子は、Phunで作られた「ニコニコスイッチ」(「ピタゴラスイッチ」の「ピタゴラ装置」のようなものを再現した動画)見て以来、Phunに夢中になったという。

 小学生のマーケティングは難しいとされる中、海外の無料ソフトがいとも簡単に子どもの心を奪う。「Phunは学研の電子ブロックみたいなものだが、電子ブロックは1万円以上した。Phunもニコニコ動画もコストゼロ。この時代はいったい、何なんだ」


イノベーションはユーザーが起こす

 「大半のイノベーションはユーザーによって引き起こされてきた」と、エリック・フォン・ヒッペル氏の「民主化するイノベーションの時代」は訴える。多くのイノベーティブな商品は「顧客のイノベーションを企業がどこかで聞き、拾い上げて商品につなげてきた」という。ただネット以前は商品の開発ペースが遅かったため、顧客から聞いた意見も忘れてしまい、まるで企業が独自でイノベーションを起こしたような錯覚に陥っていたという。

 企業のリソースは有限。新製品も社内リソースを組み合わせて発想するしかなく、どうしても限界がある。だがユーザーは「自分のニーズに合ったイノベーションを起こす」ため、自由な発想で、本当に必要とされているものを作り出せる。

 IT化で生産性が上がって暇ができ、性能が上がったPCであり余るコンピューティングパワーを持て余した一般ユーザーは、自分のために何かを作り、企業の製品に“勝手に”“無料で”付加価値を加えていくだろう。「企業の描いたロードマップは役に立たなくなってくる」

メーカーはユーザーの創作から利益を上げる時代に?

 ゲームユーザーの“創造性”には4階層ある――「シムシティ」を開発したウィル・ライト氏はピラミッド型の「創造性のエコシステム」を指摘する。最下層はプレイするだけのユーザー、次は、ゲーム内で決められたパラメーターをいじって楽しむユーザー、3番目は、システムが許す範囲で創作する――例えばマップを書き換えるなどする――ユーザー、そして頂点が、ゲームそのものを作ってしまうユーザーだ。

画像 創造性のエコシステム

 最下層:頂点の人数比率は、100:1程度。頂点のユーザーが強くなることで、最下層のユーザーもひきずられるという仮説があり、それは実証研究で証明されつつあるという。

 「ユーザーの創作は、ある臨界点を超えるとお金になる」――頂点のユーザーの創作物は、商品価値を持つ。このプラットフォーム上でゲームメーカーは、頂点のユーザーが作ったものを洗練させ、価格を付けて再配布するなどして利益を上げながら、最下層のユーザーにもアピールしていくことになる。「企業はプラットフォームホルダーにシフトしていくしかないだろう」

 ネット上ではユーザーのフィードバックがダイレクトに届き、ユーザー同士も切磋琢磨することで「ミームの新陳代謝が早まっている」。例えばニコニコ動画では、特定の動画をランキング上位にランクインさせようとさまざまな“スパム行為”が試されているが、すぐ別のユーザーにまねされて意味を失う。新さんが最近はまっているというオンラインゲーム「Call of Duty 4」でも、新戦術を編み出しても翌日には他ユーザーにまねされ、意味がなくなるという。

 流通コストが劇的に下がること、ユーザーが開発すること、ユーザーのフィードバックがかかること――ニコニコ動画など最近急速に成功を収めたネット上のコミュニティーは、この3つの条件を満たしているという。ユーザーが作ったゲームを配布するXbox 360の「Xbox LIVE Community Games」にも、これらが取り入れられている。

 「世界には今漠然とした不安はあるが、ビジネスチャンスもたくさんある」――地球シミュレータレベルの先進テクノロジーが家庭に入る未来。ユーザーが当たり前に作り、共有する未来。ゲームメーカーの生き残りの鍵は、いかにユーザーが創造性を発揮できるプラットフォームを提供するか、また、その中で創造の芽を発見し、取り込んでいくかにかかっていきそうだ。

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