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「コピーされ、2次創作されてこそ売れる時代」――伊藤穣一氏に聞く著作権のこれからおもしろさは誰のものか(2/2 ページ)

» 2008年04月15日 16時49分 公開
[岡田有花,ITmedia]
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 ファンにリミックス(2次創作)してもらい、ある程度“参加”してもらうことで、ファンとの関係を良好にしておくことは大切だ。

 ファンによるリミックスを許可する人と、そうでない人たちがいるとすれば、リミックスするファンを大事にする人たちが、マーケティングは成功するのではないかと思う。リミックスまでするような熱烈なファンは、商品を買ってくれるからだ。

 「ファンが増えてリミックスされると売り上げが上がる」ということは、実験をしながら見せていく必要がある。「ファンがリミックスしてくれないコンテンツは、世の中では認められない」ということになってくると思う。

「ファンサブ」というリミックスで、日本のアニメが海外で売れた

 米国では、日本のアニメ映像に英語字幕を付けてネットで無断公開する「ファンサブ」が流行した。そのおかげで、「NARUTO」などは、米国に正規のコンテンツが入ってくる以前からヒットしていた。

 米国以外でも、日本からアニメを売りに行っても誰も買ってくれないような場所で、ファンがその国の言語の字幕を付けてネットで公開したことによってマーケットができ、正規版アニメが売れるようになっている。

 アーティストの中には自分のアニメをリミックスされるのが嫌という人もいるだろう。本の著者でも自分の書いた本を引用されて悪口を書かれるのは嫌だと思うもの。だが「それやっちゃいけない」と言えば本は売れなくなるし、われわれの自由な議論はなくなる。

「ファンサブのせいで売れなくなった」は嘘

――ファンサブのせいで正規版DVDが売れなくなったと主張するメーカーも多いが。

 それは全然違うと思うし、分かってる人たちはそう思ってない。建て前と本音の話で、本音では裏でファンサバー(ファンサブを作る人)に映像を送ってる人もいる。

 ファンサブはほとんどの国で、2段階で発達した。昔はネットがなかったので、ビデオテープで映像を回していた。ビデオテープを作って配るにはコストがかかり、回収する必要がある。その組織が海賊版の組織になっていた。

 だがアニメがBitTorrentで流通するようになり、ネットで落とせるようになると流通コストや組織が不要になる。するとピュアなファンだけのファンサバーが強くなる。彼らは、自分の言語で正規版DVDなどが出れば、BitTorrentからファンサブ版を落とし、パブリッシャーを尊重するという姿勢を採っている。

同人文化が豊かに発達したのは「日本に弁護士が少なかったから」

――日本には、アニメや漫画のコンテンツを利用したファン活動として同人文化があり、ネット上の創作物も、同人で活動してきた人が投稿していることが多い。

 2次創作の同人文化は日本がいちばん大きい。日本には比較的、弁護士が少なかったからではないか。何だかんだいって、クリエイターがまだ力を持っているのが日本だろう。

 米国は弁護士が力を持っており、数も多い。ハリウッドの会社の半分は社長が弁護士だ。ミッキーの絵を学校のプールに書いたらディズニーが来て消させた、といったことまで起きる。

 米国でも、商用コンテンツで2次創作作品を作る「ファンフィクション」というのがあり、「ハリーポッター」のファンフィクションもあったが、裁判で訴えまくられた。ファンからすれば「愛しているのになんで訴えられるんだろう」という感じだ。

 ビートルズのアルバムを無断でリミックスした「グレイ・アルバム」はすごくヒットしたが、著作権法につぶされた。グレイ・アルバムは、その年の1番のヒットになる可能性があるぐらい認められていたのだが。ラップのサンプリングなんかも、ほとんどなくなっていった。

 米国では、ヒットするとすぐ訴えられる。すると萎縮効果が働き、みんなやらなくなる。クリエイティビティはものすごく圧迫されている。

 米国は著作権法が厳格に動いているから、その中で「これはおかしいよね」という話になって、CCのようなものも生まれた。だが日本は法律を無視している部分が結構あり、そういう国には、CCはあまり必要とされない可能性もある。

 ただ、例えば日本のテレビ局は、YouTubeに対して厳しい姿勢で臨んでいる。プロの業界では何となくYouTubeをプロモーションに利用することも「やってはいけないこと」になっている。

 2ちゃんねるやニコニコ動画を普段から使っているヘビーなネットユーザーは「そんなの関係ねぇ!」と無断投稿を続けるかもしれないが、普通の美術大学の学生などが「そんなことやっちゃいけない」と考えるのは自然。合法的にちゃんとやっている人を増やさなくてはいけない。

――日本のネット上では、非営利ならほぼ自由に2次利用できるキャラクター「初音ミク」が話題だ。

 ミクはすごく面白い話だと思っている。著作権法といういうよりは、商標法やキャラクターの権利の話になる。著作権はCCでカバーしているが、商標やキャラクター権は、一度失うと自分に戻しづらい。著作権よりもちょっと複雑。

 Wikipediaのロゴをどうするかも難しい問題になっている。今の法律の下で商標で実験している人たちはすごく少ないから重要な事例。僕も、見ながら勉強している。

MouRa共同企画:おもしろさは誰のものか

 無劣化のデジタルコピーが容易になり、ネットを使って誰でも発信できる時代。企業も個人も創作・発表する中で、旧来の著作権の仕組みがひずみを起こし始めています。

 創作のあり方はどう変わるのか。今、求められる著作権の仕組みとは――著作権の現場から考える連載「おもしろさは誰のものか」を、講談社のオンラインマガジン「MouRa」の「ザ・ビッグバチェラーズニュース」と共同で展開していきます。

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