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“同人出身”ガイナックスが語る、同人誌のグレーゾーンおもしろさは誰のものか(2/2 ページ)

» 2008年05月01日 10時46分 公開
[取材・文:堀田純司 写真:金澤智康,講談社Moura ザ・ビッグバチェラーズニュース]
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 「同人誌に関して、特にわれわれが目くじらを立てることはこれまでしてきていませんし、ガレージキットについても、あまり修正など強要しないようにしてきました。ただ、露骨にね。裸のフィギュアなんかはね(笑)。

 たとえば綾波で、裸である必然性のないフィギュアなんかはね。ちょっとやめてくれ、みたいなのは時々ありますね。綾波が好きだからつくってくれているのであれば、裸でなくとも売れるようなフィギュアをつくってほしい。それに裸でないと売れないフィギュアは、やっぱり売れないですしね。

責任は発生してくるだろうと思うんですよ

――漫画の編集部なんかには、コミケが近くなってくると「あの作品のロゴの書体はなにか」などという問い合わせがきたりするそうですね。

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 「我々のところにも『同人誌出してもいいですか』といった問い合わせは、時々きますよ。でもこれについては『OKを出すことはない』としか答えられませんね。これはもう暗黙の了解みたいなものを読み取ってもらうしかない。

 許諾を出すということは、できあがった作品について、我々にも責任が生じるということなんです。ですから作品について監修を行う義務も生じます。公序良俗の問題も含めて。

 たとえば立体物の商品の場合は、大手メーカーの製品であっても、アマチュア同人のガレージキットであっても、商品が、作品の価値を損なってしまわないようにする責務があると思っています。許諾するからには、自分たちにとっての価値を維持するだけではなく、それと同じくして、手にとってくれたファンが、がっかりしないように監修していく責務が生じる。キャラクターを管理するとは、品質や安全管理を含めてそういうことなんです。

 一方、同人誌の魅力は、キャラクターを変にいじったり過剰なエロを盛り込んだりする領域まで含めて、そうした管理から、はずれたところにあるのではないでしょうか。逆に管理される範疇(はんちゅう)の世界になったら、同人誌はもうつまらなくなって存在意義もなくなってしまうと思います。

 要するに、同人誌は版元が責任を持たないという大前提のもとでおもしろく育っていると。そうした自己責任でやってきたのが同人誌だと思います」

――しかし、そうした同人誌の世界にも、ずいぶんと以前から二次流通を手がける業者が参入するようになってきました。

 「グレーゾーンだとは思うんです。手に入らなかったものを欲しい人に渡すのは、ある意味では流通の使命であるとはいえる。それに、そうした業態が成立するということは、ユーザーさんもそれを望んでいる状況があるともいえますよね。

 ただ1000冊単位で買い取って、それを販売するといった状況ですと、それはもうファン活動ではない。ビジネスだろうと思うんです。だから、株式会社の会社がね。お金を出して同人誌を買い上げて、それを第三者に販売しているような場合だと、その同人誌の中身にあなたはちゃんと責任を持てますか、と聞いてはみたいですね。ビジネスになった瞬間に、そうした責任は発生してくるだろうと思うんですよ。そこのところをどうお考えなのか。

 僕のきわめて個人的な意見ですが、同人誌ってのは同人イベントで買うから面白いのではないでしょうか。ガレージキットでも、通販じゃなくてワンフェスの会場で買うから面白いんだろうと。売る側にしても、お祭りの場所で、自分の描いた絵をよろこんで買ってくれるお客さんに手渡しするのが、同人活動の醍醐味だと思うんですよ。

 だから通販とかの流通が確立されてくると、それは本来の楽しみ方とズレてきているようで、半分はもったいないなあという気持ちと、もう半分は『それでいいの?』という気持ちを感じます。まあ、オヤジくさくなりますけど(笑)。

 もっとも、こうした流通を否定すると『じゃあ、イベントに参加しづらい地方の人はどうなるんだ』っていう意見もあります。ただ、昔の、情報がない時代。自分たちが面白いものを掘り起こして、一生懸命人に紹介して、という活動からアニメブームが起きた事情を見てきた人間としては、現在の情報の過剰供給は、どこか行き詰まりがくるんじゃないかという気はします」

 現在はイベント会場以外でも同人誌を入手する手段はずいぶんと増えたが、それでも夏と冬には全国から膨大な、あまりにも多数の人がコミックマーケットの会場にやってくる。同人誌を買うためだけならば他に手段はある。しかしこれだけの人が集まるのは、多くの人がコミケを一種の「祭典」として、参加して会場をめぐり、雰囲気を体験し、自分の目で作品を見てまわることを大切にしているからではないかと思う。会場に参加したことがある方ならば、神村氏の意見に賛成できるのではないだろうか。

 規制から離れたところで育った同人誌の世界。アマチュアでもきちんと版権許諾を得られるシステムを確立したガレージキットの世界。しかし、現代はネットワーク技術の発達によりあらたな”ファン活動”が注目されるようになった。それは二次創作ではなく、作品そのものをネット上にアップしてしまう行為。こうした違法行為をつくり手側はいかに考えるのか。次回につづく。

MouRa共同企画:おもしろさは誰のものか

 無劣化のデジタルコピーが容易になり、ネットを使って誰でも発信できる時代。企業も個人も創作・発表する中で、旧来の著作権の仕組みがひずみを起こし始めています。

 創作のあり方はどう変わるのか。今、求められる著作権の仕組みとは――著作権の現場から考える連載「おもしろさは誰のものか」を、講談社のオンラインマガジン「MouRa」の「ザ・ビッグバチェラーズニュース」と共同で展開していきます。

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