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「権利者こそが消費者重視、JEITAは見習うべき」――補償金問題で権利者団体が会見

» 2008年06月25日 00時00分 公開
[ITmedia]

 「JEITAはわれわれの質問に答えず、役所まで使って我を通した。権利者としては『ここまで常軌を逸している相手と突っ張り続けても生産的ではない』と判断し、消費者のためにダビング10を了承した。権利者の見識を、JEITAは見習ってほしい」――権利者側の89団体が6月24日に開いた会見で、実演家著作隣接権センターの椎名和夫さんはこう述べ、JEITA(電子情報技術産業協会)の対応を批判した。

 ダビング10をめぐっては、対応機器を私的録音録画補償金の対象にするかどうかで著作権団体とメーカー側が対立。文部相と経済産業相が17日までにBlu-ray Disc(BD)とBDレコーダーに補償金を課すことで合意した。権利者側は当初、「ダビング10と補償金は別問題」と受け入れに難色を示していたが、19日の「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会」(総務省の情報通信審議会傘下、デジコン委員会)で譲歩。ダビング10は7月4日午前4時にスタートすることが決まった。

画像 椎名さん

 この日の会見は、文化の重要性を訴え、私的録音録画補償金制度の堅持を求める権利者の運動「CULTURE FIRST」の第2弾イベントとして開かれた。

 椎名さんは「権利者は、BD課金に関する省庁合意がきっかけでダビング10について譲歩したと見られているが、それは本旨ではない。BD課金がダビング10の解決にならないことは明確にした上で、期日の確定をした」と話す。

 「ダビング10に同意しないという選択肢もあり、『権利者は重要なコマを失ったのではないか』という意見も承知しているが、あえて逆を行った」という。ユーザーの利便性を考えた結果の譲歩だったと椎名さんは解説する。

 「権利者はJEITAに対して2回質問状を送ったが、それぞれ『文化審議会で回答する』と返信があり、今のところ直接の回答はない。JEITAは質問に答えず、挙げ句の果てには役所を使って我を通した。まるで『偉大な将軍様は絶対』と繰り返す相手に対して『そうはいっても将軍様も人間だろう』と話しかけても『将軍様は絶対』という返事しか来ないような状況。対話を拒否するJEITAは、当事者性を失っている」

 「ここまで常軌を逸している相手と突っ張り続けることと、そうでない選択肢を比べた時、前者にはあまり生産的な要素が感じられなかった。もはや当事者としての能力を持つのは権利者のみ。周りの迷惑を顧みず立場を貫いても誰もほめてくれない。これが権利者の見識であると申し上げたい」

 「今回の譲歩でわれわれが示した“消費者重視”と、メーカーが言う“消費者重視”とが、どう違うか見比べてほしい。補償金はユーザーのための制度で、最終的にはユーザーの理解を得ることが大切だ」

 権利者が要求し続けてきた、ダビング10の見返りとなる「対価の還元」については、デジコン委員会で補償金以外の還元策について議論していくという。補償金については引き続き、文化審議会で議論を続ける。

ダビング10の遅れは「メーカー側の問題」?

 ダビング10の開始日は7月4日に確定したが、機器の対応が間に合わないと発表するメーカーも出ている。「ダビング10が遅れた本当の理由は、メーカーサイドの機器対応の問題だという報道があったが、それがリアリティーを増している。デジコン委員会で権利者が譲歩し、期日が決まったことで、メーカーがびっくりしたとも聞いている。今後、どのメーカーがどういう対応をしてくるか、みなさんにはぜひウォッチしていただきたい」

「補償金がなくなれば、メーカーはフリーライドすることになる」

画像

 JEITAの主張通り、コンテンツのコピーをDRMで管理し、補償金を撤廃するとどうなるか――「機器メーカーが得をし、ユーザーが損をする」と日本音楽著作権協会(JASRAC)の菅原瑞夫常務理事は話す。

 菅原さんは「補償金はユーザーが負担することになっているが、日本では実質的にメーカーが負担している」とした上で、補償金がなくなってDRMで管理することになれば、(1)私的複製の自由がなくなる、(2)ユーザーが利用したコンテンツが把握され、プライバシー侵害につながる――というデメリットがあると指摘する。

 メーカーは現在、補償金を徴収・分配する「協力義務」を負っているが、補償金制度がなくなれば義務から解放されることになる。

 「補償金がなくなれば、創造のサイクルが生み出す利益に、メーカーがフリーライドする状況になる。知財立国を掲げる日本で、上場し、優れた機材を輸出するメーカーが、単に『自分だけがいい』ということでいいのか。そうなれば最終的に創造のサイクルが壊れ、社会が文化的に貧しいものになってしまう」(菅原さん)

「文化が失われれば、メーカーの責任は重大」

画像 菅原さん

 補償金の未来については、文化庁が提示した案について、文化審議会著作権分科会の私的録音録画小委員会で議論が続いている。「コンテンツのコピーをDRMで管理し、補償金を撤廃するが、当面の経過措置として、CDからのiPodなどへの録音と、ダビング10対応機器への録画には補償金課金を検討する」という内容で、次の小委員会は7月10日に行われる予定だ。

 「JEITAは小委員会の場で、文化庁案に対してイエスかノーかをはっきりしてほしい。それによって創造のサイクルが壊れた場合、文化的な損失に対するメーカーの責任は重大。責任追及していかざるを得ないと思う」(菅原さん)

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