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大学入学、起業、健康ソフト開発――「ビーマニ」開発者の今

» 2008年07月02日 14時00分 公開
[宮本真希,ITmedia]
画像 南雲玲生さんの似顔絵

 1997年に登場したコナミのDJゲーム「beatmania」(ビートマニア)は、“音ゲー”として一時代を築いた。サウンドクリエイターとして携わった南雲玲生さん(34)は2000年、26歳でコナミを辞めた。「このままではいけない」――そんな焦りがあったという。

 大学に入学し、経済学を学ぶかたわら、「ユードー」という名のベンチャー企業を興した。「リスクを負ってでも、世の中のために役立つ仕事をするという“武士道精神”を子どもに伝えたかった」という。

 社員の“課外活動”を大切にする。「0を1にする作業は、クレイジーなものから生まれる」から。ビートマニアのようなゲームが作れるサービス「ぱんぱんミュージック」も、課外活動からうまれた。

「娯楽がゲーム以外に広がっていった」

 高校卒業後、広告制作会社に入社した。音楽に関係する仕事をやりたかったが任されたのは営業。音楽の仕事を求めて97年コナミに移った。「ビートマニア」の開発にサウンドクリエイターの1人として携わった。

 「プレイステーション 2」が発売された2000年、「このままじゃだめだ」と思った。娯楽がネットなどゲーム以外に広がり、ゲーム機は売れてもソフトが売れない。「ゲームメーカーは柔軟性に欠けていて、新しい事業に進出できなかったからでは」

 不安に駆られ「新しいことを勉強しなければ」と大学入学を決意。コナミを退社し、青山学院大学で経済学を学んだ。

 ユードーを起業したのは2003年、大学入学と同時期。「大学に行きながら仕事をするには、起業しかないと思った。勉強にもなるし、一石二鳥」。

 2002年に第一子が産まれた。「リスクを負ってでも、世の中のために役立つ仕事をするという“武士道精神”を子どもに伝えたかった」

「ゲームは何にでも役立つ」

画像 ゲームCD-ROMとガムが入っている

 社名の由来は"誘導する"。ゲームの楽しさを娯楽以外の分野で役立てたいという思いを込めた。「ゲームは何にでも役立つ。ゲームには、難しいものを楽しく伝えられるという良さがあるから」

 シリアスゲームをメインに扱う企業と位置づけた。南雲さんにとってシリアスゲームとは、娯楽の目的以外に社会的意義を持つゲームのこと。職業訓練の支援や、教育、商品の販促などに役立つゲームを指す。「日本初のシリアスゲームの会社だったと思う」

 ゲームで観光案内をと、プレイヤーが探偵となって、横浜の観光スポットなどを冒険する携帯電話向けゲーム「なびんちょ」(2004年)を開発。異業種にもゲームのよさをと、カバヤ食品と共同でゲームCD-ROM付きのお菓子「ゲーム伝説」(2005年)を開発した。日本航空や日本コカコーラの広告用ゲームも作った。

 異業種との文化の違いには苦労した。「ゲームやエンタテインメント業界のゆるいノリや雰囲気に抵抗感を示されることもある」――茶髪にピアスという当時の南雲さんの格好は、ゲーム業界では当たり前だったが、ほかの業界では嫌がられることも。スーツやネクタイを着用したり、清潔感のある髪型にすることに慣れるのが大変だったという。

ゲームがかつてのアマチュア無線やオーディオのように衰退していくのでは

画像 健康検定の携帯サイト

 「何でも屋では、1つ1つが薄くなり、会社のブランディングも薄くなる」――2006年、シリアスゲームをメインに扱う企業から、「音楽」「健康」「教育」分野のゲームに特化した企業へと方針転換。「その業界の知識を持ったスペシャリストでないと信頼を得られないし、大きな案件を進められない」と考えた。

 「ゲームがかつてのアマチュア無線業界や、オーディオ業界のように、マニア化、衰退していく危機感・不安感も持っていた」という。10年、20年後を見据え、市場の拡大が見え、社会貢献につながり、衣食住に近い分野に絞り込まねば。それがこの3分野だった。

 健康分野では昨年11月、ニンテンドーDSソフト 「健康検定」を発売。バランスの取れた食生活やエクササイズなど、健康管理についてクイズ形式で学べるソフトで、量販店のほかドラッグストアでも販売し、約1万2000本を売り上げた。携帯サイトや書籍も作った。健康検定の好調が寄与し、昨年度の会社全体の収益も前年の数倍に伸びたという。

 音楽分野では今年4月、ローランドの電子ドラムセットに対応するドラム練習ソフトの提供を始めた。8月にはWiiウェア向けギターゲーム「AeroGuitar」の配信を始める。教育事業では、環境問題などが学べるゲームの制作を検討している。

「0を1にする作業は、クレイジーなものから生まれる」

画像 ぱんぱんミュージック

 社員は7人。Webサイトや楽曲を作ったり、ランチを自炊したり、自転車でオフィス(横浜市)から箱根まで出かけたりなど、通常の業務のほかに"課外活動"をよくしているという。

 「新しいものを作っていくには、気持ちのゆとりが必要。1を99にするのではなく、0を1にする作業は、クレイジーなものからうまれる」

 課外活動からアイデアやサービスが誕生する。4月中旬に公開した「ぱんぱんミュージック」もその1つだ。

 ぱんぱんミュージックは、曲に合わせてキーボードを叩くだけで、ビートマニアのようなゲームを作成できるネットサービス。大高紘ディレクターら社員4人が2カ月間かけ、業務が終わった後の時間で開発したサービスで、サーバ代も当初は社員が出し合ったという。

画像 大高紘ディレクター

 開発を始めた経緯は「覚えていない。いつの間にか開発が始まっていた。良いものができたのでプレスリリースで発表した」(大高さん)。

 ビジネス化も全く考えていなかったが、着メロを使ったゲームサイトを作るために、ぱんぱんミュージックの仕組みを提供してほしいといった企業からの依頼もきており、驚いているという。

 サイトのページビューは1日に4〜8万。これまでに投稿されたゲーム数は2000以上。7月には、AeroGuitarで配信する楽曲をぱんぱんミュージックで募集するコンテストも始める予定だ。

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