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「つぶすわけにはいかない」――こくばん.inを会社化した理由

» 2008年09月19日 15時59分 公開
[宮本真希,ITmedia]
画像 黒板ふうのフォームに絵や文字が描ける

 「最近、周りの人から“こくばん社長”って呼ばれるんです。それが1番大きな変化かな」――「こくばん.in」を開発した宗原吉則さんはそう言ってはにかむ。

 こくばん.inは、Webブラウザ上の黒板ふうフォームに、チョークのような線で絵や文字を描いたり、黒板消しのようにぼかしたりできるサービス。フリーでFlashエンジニアを務める宗原さんが趣味で開発し、今年2月にオープンした。


画像 イラスト一覧

 当初は収益化に消極的。広告もほとんど張らず、サイトからの収入は半年間ほぼゼロだった。だがユーザーが増えるにつれ「このままつぶすわけにはいかない。ビジネスとしても成功させたい」と思うようになった。

 8月に「株式会社こくばんin」を設立。本格的にビジネス化していく。Flashエンジニアとしての仕事もしばらく並行するが、今後は社長として、こくばん.inの業務に集中していく考えだ。

 会社化しても当初と変わらず、妻と2人で運営している。「ネットにどっぶり浸かった人ではなく、“普通の人”である妻の意見はありがたい」という。

「このままでは限界が来る」


画像 「はてなブックマーク」などに投稿されて話題になった
画像

 こくばん.inは個人的な趣味で作ったサイト。広告は「デザインの邪魔になるから」と掲載しないつもりだった。「サーバの維持費も最初はそんなに高くなかった。広告を張って得られるメリットは少ないと考えていた」

 だがユーザーが増えるにつれ、サーバ拡張費用などがかさんでいく。現在、ページビューは1日当たり約10万、作品総数は約40万まで増えている。5月には会員登録機能を追加し、約1万人が登録している。

 タモリさんの似顔絵杏仁豆腐のイラストのように、質の高い作品が「はてなブックマーク」などほかのサイトで話題になることもある。タモリさんの似顔絵は約20万回閲覧されている。

 8月にAdSense広告の掲載を始めたが、収入は1日当たり1500円ほどで「このままでは、今後限界が来る」と感じ始めた。「ここまで来たら、サイトをつぶすわけにはいかない」――収益化を本気で考えるようになった。

 あるユーザーから「なぜ広告を掲載しないんですか? 広告がないサイトは怪しく見える」と言われたことも、収益化を検討するきっかけになった。「意外な意見だった。広告はサイトのデザインの一部になっているんだと分かった」

 会社化することで、広告を出稿してもらったり、業務提携をしやすくする狙いだ。こくばん.inの機能を他社サイトに有償提供するといったビジネスも考えている。

 「黒板を置いてあるレストランなどを町でよく見かける。世の中にたくさんある黒板を、新たなネット広告のプラットフォームとして提供したい」

 「思いのほか多くのユーザーに使ってもらえるようになった。ビジネスとしても成功させられるよう、チャレンジしたい」と意気込む。

ユーザーの中心は小中学生

画像 宗原吉則さん

 開設当初のキャッチフレーズは「あのころの甘酸っぱい思い出をもう一度。線を引くとチョークの粉がぱらぱら落ちる演出など黒板をリアルに再現し、黒板に長年触れていない人が懐かしさを感じられるよう工夫した。

 だが3月にテレビで紹介されて以来、リアルタイムに黒板を使っている小中学生のユーザーが急増したという。春休み中だったためだろうか。

 「正確には分からないが、登録ユーザーの約半数はおそらく中学生以下。授業中に手紙を回したり、交換日記をするような感覚で、こくばん.inをコミュニケーションツールとして使っているのだろう」

 今後は「主婦など、もっといろいろな人に受け入れられるオープンな場にしていきたい」という。8月に宗原さんが主催して初めて開いたオフ会には、15人のユーザーが集まった。小学6年生、40代の女性、65歳の男性など、年齢層は幅広かったという。

絵が苦手な人にも使ってもらえるように

画像 リレー機能を使った作品

 「ユーザーにとってこくばん.inを使うメリットとは何かを最近よく考える」――課題は「手書きブログ」や「はてなハイク」など、ほかのお絵かきサービスとの差別化。どのように“こくばん.inらしさ”を打ち出すかだ。

 まずは「絵が下手でも許される空間作り」を心がけていく。絵の上手さは関係なく、誰でも楽しめるように――と、ほかのユーザーの作品の上に文字やイラストを書き込める「リレー」機能を作ったほか、同時に10人のユーザーが1つのこくばんに描き込める「みんなでらくがき」機能も不定期に時間限定で公開している。

 リレーやみんなでらくがきを使えば、絵が上手いユーザーのイラストに、“ヒゲ”のいたずら書きをして楽しむ――といったことも可能だ。「絵が苦手だからサイトを使うのをやめようという思いだけはさせたくない」

 多言語化も検討していく。「黒板は世界中で知られているもの。国内発のサービスとして、世界に受け入れられるポテンシャルは秘めていると思う」

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