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初音ミク「あかつき」に搭乗! 種子島で実機を見てきた(1/3 ページ)

» 2010年04月08日 15時33分 公開
[森岡澄夫,ITmedia]

「あかつき」最後の公開

 4月5日、種子島宇宙センターで、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の金星探査機「あかつき」(PLANET-C)とソーラー電力セイル「IKAROS」(イカロス)の最後の公開が行われた。両衛星は、大学などの相乗り小型衛星とともに、5月18日午前6時44分に打ち上げられる予定だ。

 JAXAは両衛星への応援メッセージをインターネットで公募。集まったメッセージはアルミパネルに転写され、両衛星に搭載される。あかつきには初音ミクのイラストを乗せてもらおうと筆者ら有志が呼び掛けた結果、1万4000人のメッセージ入りのミク・パネルが3枚、「あかつき」に乗ることになった(金星へ飛び立つ「あかつき」と初音ミクパネルを見てきた)。

 4月5日にはメッセージパネルの搭載作業が公開された。ミクが彼女の宇宙船(?)に搭乗する瞬間に立ち会えるのだ! それならば何を差し置いても行かなければ、ということで筆者は種子島に向かった。

「あかつき」に会いに行く

画像 あかつきに会うには防塵服を着る必要がある

 現在、「あかつき」と「IKAROS」はJAXA相模原キャンパス(前回のリポート参照)から種子島宇宙センターの第2衛星組立棟に移されている(一般の見学は不可)。機能的な試験は既に完了しており、今後はH-IIAロケットとの接続アダプタやフェアリングの結合、ロケットへの搭載が行われる予定だ。ロケットは三菱重工業の工場にあり、4月8日に種子島へ輸送されて組み立てられる。

 両衛星はクリーンルーム内に置かれており、会うためには防塵服を着てエアシャワーを通らなければならない。クリーンルーム内では、鉛筆やティッシュペーパーなどほこりを発生させる物の使用が禁止で、半導体工場ほどではないものの厳重に汚染管理されている。筆者にとって、本物の人工衛星を手が届きそうな近距離で見るのは初めてで、とても新鮮な体験だった。


画像 足先まで全身カバー。持ち込むカメラなどもすべてきれいに清掃しなければならない
画像 衛星はクリーンルームに置かれている。エアシャワーを浴びないと入れない
画像 エアシャワーの出口

画像 クリーンルーム内の様子。左手がミクの乗る金星探査機「あかつき」、右手がソーラー電力セイル実証機「IKAROS」

 クリーンルームは写真の通り非常に広い部屋だ。周辺の人と比べると、衛星の大きさの見当がつくだろう。「あかつき」は1.04×1.45×1.40メートルで重量約500キロ(燃料搭載時)、「IKAROS」は直径1.6メートル、高さ0.8メートルで重量約310キロ。もともとはM-V型ロケットでの打ち上げを予定していたこともあり、人工衛星としては小さい方だ。写真ではややくすんだ色に見えるが、実物は光り輝くきれいな金色をしている(金色の折り紙と同じ色)。写真では、色合いや雰囲気、質感をあまり伝えられないのが残念だ。触るどころか近寄る事もはばかられる圧倒的な緊迫感で、美しい。

初音ミクの「あかつき」搭乗を見届ける

画像 メッセージパネル。写真はフライト品と同じ作りをしたサンプル品。全部で約90枚搭載される

 メッセージパネルは12×8センチの薄いアルミ板で、搭載されるのは全部で約90枚。並べてみると、ミクパネルが群を抜いて目立っており苦笑してしまったが、1枚ずつ見ていくとどのパネルも楽しい出来上がりだ。団体応募分のパネルは、色紙などのコピーなので肉眼でも内容が分かる。個人応募分のパネルは遠目には一面グレーにしか見えないが、虫眼鏡で拡大すればきちんとメッセージが読める。どれも一生懸命、金星や宇宙に想いをはせて書かれている。


画像 上の3枚が初音ミク・パネルのサンプル品。目立っていた

 クリーンルームには、実際に飛ぶパネルが搬入されていた。これはベーキング作業(真空加熱して、宇宙空間でガスが発生したりしないようにする処理)が終わったもの。衛星へのパネル取り付け作業自体はあっという間で、特に変わった工程もないボルト止めだ。

 パネルはたくさん重ねた状態で取り付けられた。打ち上げ時にはパネルの上にサーマルブランケット(周囲と同じ金色のフィルム)を被せるので、外から絵柄は見えなくなる。しかしミクが乗っているのは間違いない事実なので、筆者としてはこれ以上ないほど満足だ。


画像 実際に飛ぶメッセージパネルのフライト品。ベーキング処理が済んだもの
画像 メッセージパネルの取り付け開始
画像 メッセージパネルのネジ止め中

画像 衛星と比べるとこれぐらいの大きさ
画像 取り付けが終わったところ
画像 パネルはたくさん重ねた状態でまとめて搭載される

画像 飛行時、パネルは金色のブランケットで覆われる

 ミクがほかのパネルとともに搭乗を果たしたのを見届け、一通り写真を撮影してから、筆者は少し気持ちを落ち着けて「あかつき」をゆっくり眺めてみた。今回のミクパネル企画を通して、JAXAや関係の人達の足掛け10年もの努力の結実であることを知り、とてもではないが「単なる金色の四角い箱」などとは思えなくなった。26万人とミク女神の応援も、本当に効果を発揮してほしい。

ミクの母船「あかつき」を観察

画像 「あかつき」は5つのカメラで金星を観測(JAXA提供)

 ミクを金星へ運んでくれる大事な母船、「あかつき」を観察してみよう。JAXAのサイトに、分かりやすい紹介映像がある。

 この衛星の主目的は、金星の大気の運動を観測して地球と比べ、地球環境をより良く理解する礎にしよう、というものだ(惑星気象学という面白そうな研究分野)。打ち上げ後半年で金星に到達したら逆噴射を行い、金星を30時間で回る軌道に入って、通常2時間ごとに観測をする。間隔は状況に応じて調整される。観測は、いろいろな波長のカメラ5台と電波の発生源1台を使って行われる。

 以上を頭に置いて、「あかつき」が飛ぶ様子を想像しつつ写真を見ると、ずいぶんと理解しやすくなる。それでは筆者と一緒に、「あかつき」の周りをぐるりと一周回ってみよう。

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