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仙台駅内にボランティア情報ステーション開設 希望者が続々訪問現場ルポ・被災地支援とインターネット

» 2011年05月06日 21時05分 公開
[藤代裕之,ITmedia]

大震災の情報源としてインターネットが活用されているが、被災地からネットで発信される情報はあまりに少ない。震災被害はこれまでの経験と想像すら超えており、ネットにおける被災地支援、情報発信も従来のノウハウが通用しにくい状況だ。

ブログ「ガ島通信」などで知られる藤代裕之さんは現在、内閣官房震災ボランティア連携室と連携している民間プロジェクト「助けあいジャパン」に関わっている。ネットを使った被災地支援の「現場」では何が起き、何に直面しているのか。ネットという手段を持つるわたしたちには何が求められているのだろうか。震災とネット、情報を考える、マスメディアには掲載されにくい「現場」からの現在進行形のルポとして、藤代さんに随時報告していただきます。(編集部)


▼その1:「情報の真空状態」が続いている

▼その2:できる範囲でやる──ボランティア情報サイトの立ち上げ

▼その3:「ありがとうと言われたいだけのボランティアは 必要としていない」

▼その4:ターニングポイントになった夜

▼その5:チームを作る 誰がDBを作るか、プロデューサーは誰か

▼その6:有用性と実装スピードの両立 「とにかくこれでやらせてくれ」

▼その7:データベースは5カラムで設計 学生チームが入力を始める

▼その8:Yahoo!チームが訪ねてきた データベース情報の利用が始まる

▼その9:ボランティア情報がない?

▼その10:Facebookで情報を共有 学生ボランティアが支えた活動

 ボランティア情報はネット上に増えてきていたが、現地からの情報は依然として少なかった。新幹線が開通すると「現地に行けばなんとかなるだろう」とゴールデンウィークにボランティアが準備なく被災地に入る可能性もある。宮城県仙台市にリアルのボランティア情報ステーション(VIS)を開設し、情報の提供と収集を行うことにした。

仙台に拠点確保へ

 4月9日(土曜)。事前調査のために連絡調整の担当者が仙台市に入った。社会福祉協議会、ボランティアセンター、NGOなど関係すると思われる団体や会議を回った。東京での調査同様に、「仙台市近郊のボランティア活動は収束フェーズにあるので仕事はない」「ボランティア情報を集めるぐらいなら現地で活動を」というように一般ボランティアへの反応は芳しいものではなかった。

 既に震災から1カ月が経過したが、ボランティア団体側には一般ボランティアへの意識は低く、大事なことだろうが、そんなに急ぐことではないという認識のようだった。だが、VISはボランティアを希望する人々に情報を届けるのが役割だ。月内に新幹線が開通し、被害の大きな被災地に何の情報を持たないままボランティア希望者があふれることは避けたかった。

 事前調査は、どこかの団体や機関がボランティア希望者への情報を集約、提供している、または実施しようとしていれば連携するというものだったが、結局のところどこも核になりそうもなかった。VISの活動を理解し、サポートしてくれる地元の説明者もいたことから、東京から先遣隊を送り出すことにした。

 ミッションは「1週間で仙台駅内か駅近くに拠点を確保すること」。ボランティア情報がないならないで、「ない」という情報を届けていくことも大切だ。最もまずいのは情報そのものが「ない」ことだ。

「進め方が急」か

 夜行バスでとんぼ返りした担当者は11日(月曜)朝、ボランティア休暇を取ってグループで参加してくれた社会人とバスで再び仙台に向かった。

 グループへの依頼は、最初は情報ボランティアとして現場へ、次にデータ入力、そしてステーション立ち上げと数日で変更されていた。状況は刻々と変わり、その中で最大限の効果を出すための選択だったが、参加する側からすると「急な変更ばかりで、どうなっているのだ」と思うのは当然だ。改めて経緯を説明、協力してもらうことになった。どの活動もボランティアであり、参加者の意思が第一となる。

 「進め方が急だ」「これまでに例がない」といった言葉は様々な場面で聞くことになる。確かに、調整や事前協議の必要性はスムーズな活動のために不可欠だが、未曾有の大規模災害で進め方を議論しているのには違和感があった。そもそも情報提供のようなコーディネーション機能は、社会福祉協議会やボランティアセンターが受け持つはず。VISとしては、これらの団体の機能回復までの暫定的な取り組みで貢献できると考えてはいたが、関係者から批判的な言葉を返されることも多く、スタッフには「なぜ、批判されてまでボランティア活動をしなければならないのか」という意見も出始めていた。

JRが協力、仙台駅内にボランティア情報ステーション開設へ

photo 仙台駅内にプレオープンしたボランティア情報ステーション

 そんな中で立ち上げチームは、情報収集や設備、人材といったグループに分かれて活動を開始した。地元関係者の協力によりJR東日本との打ち合わせが実現した。社会福祉協議会、ボランティアセンターや観光関連団体などにも挨拶し、連携が徐々に進んでいた。

 最も大きな成果は、JRの協力を得て仙台駅中央改札口近くの駅構内に場所を提供してもらうことが決まったことだった。仙台駅の待ち合わせスポットとして有名なステンドグラスの隣で、場所は最高だった。15日午後2時、プレオープンすることが決定。宮城県災害ボランティアセンター、仙台市災害ボランティアセンター、仙台市観光コンベンション協会が協力に名前を連ねることも決まった。

 最大の懸念はボランティアスタッフについてまったくめどがたっていないことだった。先遣隊のボランティア休暇は1週間、週末が迫っていた。

 地元紙・河北新報の協力を得て、運営する地域SNS「ふらっと」にステーションの準備ページを開設、ボランティア募集の告知を行ったのが13日。説明会の日時は15日午前10時。ふらっとのスタッフにも情報を広げてもらったが、反応がなかった。14日の午後になってもボランティア希望の連絡は一通もなかった。14日夜、再度メールをチェックしたところ設定が誤っており、50人の希望者がいたことが判明する。担当者からの電話は喜びよりも、安堵したような静かなトーンだった。

進んでいないボランティア情報のマッチング

 これで条件は整った。15日朝、プレオープンに出席するため羽田空港から仙台空港に向けて飛んだ。米軍と自衛隊によって再開した空港はターミナルビルの一部しか使われていなかったが「がんばろう」の張り紙が至る所にあり、壁には寄せ書きが飾られていた。仙台市内に向かう高速道路からも津波で流れてきたとみられる船や材木がまだ点在していた。

photo ボランティア希望者への説明会の様子

 仙台駅に少し立ち寄りあいさつをした後、ボランティア希望者のオリエンテーションに顔を出した。ペアになり相手を紹介するアクティビティが行われており、相手のユニークな紹介に湧いていた。リーダーなどの役割も決まった。

 再び仙台駅に戻ると女性が訪ねてきた。学生ボランティア受け入れ先を探し、仙台市内の関係箇所をまわったが「受け入れ先はない」と断られたという。女性は関東の国立大学教授で、大学ではバスを用意して準備しているがどうしたらよいかと悩んでいた。オープンを報じた河北新報の記事を見たという仙台市内の女性からも長いメールも届いた。ボランティアを行おうと避難所にいくと、受付ではニーズがあると言われたものの、責任者に帰れと告げられたという。


1日600人の訪問も

 「ボランティア情報ステーションin仙台宮城」は、土日祝日のみオープンで始まったが、運営ボランティアによって新幹線開通にあわせて平日もオープンすることになった(5月8日まで)。関連団体への会議出席、高速道路のパーキングエリアに兵庫県と同県社会福祉協議会が設置したボランティアインフォメーションセンターとも連携が実現。ゴールデンウィークに入り1日600人が訪れている。日々の活動の様子はブログで公開されている。

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