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高校のない町にネットの力で新たな教育環境を 「N高」と連携した「Nセンター」、地方に開設

» 2016年05月27日 16時24分 公開
[山崎春奈ITmedia]

 カドカワは5月27日、通信制高校「N高等学校」の教育システムを活用した拠点「Nセンター」を地方自治体と連携して設置すると発表した。鹿児島県長島町、群馬県南牧村でこの夏から順次スタートするほか、佐賀県武雄市にも開設を予定する。

photo ネットを活用した教育拠点「Nセンター」

 「N高等学校」(N高)は今年4月に開校したインターネットを利用した通信制高校。高卒資格を取得するための通常の授業はもちろん、プログラミングやファッションに関するものなどさまざまなジャンルの講義を受講できる。

 「Nセンター」は、高校のない地域の高校生によりよい教育機会を提供することを目指した施設。N高が利用する双方向型の課題教育アプリを使った予備校の講義などのネット配信や、専任チューターによる自学自習のサポートを行い、リアルな通学の場として運営する。キャリア教育面でも、プログラミング講座、文芸小説制作など、KADOKAWAやバンタングループと協業したN高生向けの講座を実施する。

photo N高のアプリを活用。リアルタイムに質疑応答もできる
photo 課外授業として受講可能なコンテンツ

 地方ならではの体験型学習の拠点としても活用。他地域のN高生や都市部の若者が宿泊滞在し、地元の産業や職業を体験できる機会を設ける。

photo ドワンゴ 大井川和彦取締役

 ドワンゴの大井川和彦取締役は「ネットを活用した公営の学習塾として、職業体験やプログラミング学習など将来に役立つキャリア学習センターとして、都市部と地方で広がる教育格差の問題解消につなげたい」と展望を語る。

高校のない町に、高校を卒業できる環境を

 Nセンター設置場所の1つ、鹿児島県長島町は、4つの島からなる人口1万人程度の町。2007年に高校が廃校になってから、隣町まで長時間かけて通学する必要が生じ、子どもの教育のために家族で町外へ引っ越すケースも出ていたという。今回の協業で、通信制高校とリアルな学びの場を組み合わせた新たな教育の機会を創出する狙いだ。

photo 7月開所予定の「Nセンター長島」のイメージ図

 Nセンターは、役場内の空き施設をリノベーション。運営や学習指導にあたるチューターは、「地域おこし協力隊」としてネットで公募し、東大・京大出身の20〜30代の2人が務める。

photo 鹿児島県長島町 井上貴至副町長

 井上貴至副町長は「高校のない町の中で高校を卒業できる環境を作るために、ICTの力を最大限活用したい。地方では知る機会が少ないキャリアや進路選択に関わる情報にアクセスできる場所としても、島外の高校生にも利用してもらえれば」と期待を寄せる。

 N高生をはじめ全国の高校生に、農業や漁業など、地域産業に触れてもらう体験学習の機会も提供していければという。「まずは知ってもらうこと。長期的には移住・定住や後継者育成にも何らかの形でつながるかもしれない」(井上副町長)

 第1弾として3つの地方自治体と連携し、反響や成果を見ながら今後の施策を検討するという。大井川取締役は「場所の提供やチューターの雇用など協力してもらう部分が大きいため、基本的にはNPOや企業ではなく自治体と取り組むことを考えている」と話している。

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