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2016年10月18日 16時38分 UPDATE

病院に横たわる不気味なロボットが治療中に「ハァ……ハァ」と荒い息遣い 福岡歯科大学で何が起こっているのか

病院で聞こえる「ハァ……ハァ」と荒い息遣い。その正体は……。

[太田智美,ITmedia]

 病院に人間そっくりの不気味なロボットが2体……そのうちの1体は苦しそうな息遣いで横たわっている。ここは福岡県にある福岡歯科大学。何が起こっているのか。



 このロボットの名前は「田村優子」。人間そっくりに作られた「患者型ロボット」だ。


福岡歯科大学ロボット 患者型ロボット「田村優子」

 田村優子は、遠隔操作で医師と会話をしたり、口を開けたり、咳をしたり、ベロで器具を押し返したりといった基本的な患者の動作をシミュレーションできる。

 それだけではない。歯の治療中に起きる心筋梗塞やアレルギー反応、アナフィラキシーの症状、過呼吸といったシミュレーションも可能だ。もちろん、脈拍や血圧も計れる。ロボットの腕には血管があり採血や点滴もできるように作られている。なぜ歯科で、ここまで人の体を再現するロボットが必要なのか。


福岡歯科大学ロボット 患者に触れるときと同じように手には医療用手袋を装着


 「われわれは、口の中の治療を『歯科』ではなく『口の中の医学』(=口腔医学)と考えている」――福岡歯科大学の尾崎正雄教授はこう話す。

 「歯科では歯の治療だけを行うと思われがちだが、治療中に起こり得るさまざまな可能性を考慮しなければならない。例えば、緊張からくる神経性ショックや過呼吸、脳卒中、アナフィラキシーの症状など。そうした緊急事態に対処できるような訓練を考えた場合、『ロボット』という案があった」(尾崎教授)


福岡歯科大学ロボット 尾崎教授

福岡歯科大学ロボット 治療前の緊張の一瞬……

福岡歯科大学ロボット 治療開始

福岡歯科大学ロボット 別角度

福岡歯科大学ロボット 口を大きく開いて……

 もともとコンピュータサイエンスが好きだった尾崎教授は、小児歯科医でありながら統計処理のプログラムや、VRや人工知能の勉強をしていたという。つい数年前までは自身でソフトを作成し、VRとハプティックデバイスを用いた歯を削る練習を学生にやらせてみたり、モーションキャプチャー技術を用いて仮想上にあるデンタルミラーのコントロールをしたりといった実習も行っていたという。しかし、ソフト開発では研究費が出にくいことや、バーチャルでは実際の治療と少し感覚が異なるなどの理由から、途中で断念。ロボットの導入へと舵を切ったのだ。



福岡歯科大学ロボット 操作画面

福岡歯科大学ロボット 歯を入れ替えて何度も実習でき

福岡歯科大学ロボット ロボットが導入されるまで実習で使われていた、人型の模型。これだとある程度の実習はできるものの、対象が動かないため実際の治療と大きく異なるのだという

福岡歯科大学ロボット このような形で実習

福岡歯科大学ロボット 1人1人が実習できるよう、各机の下に1体備わっている

 福岡歯科大学の患者型ロボット「田村優子」は、実は2号機。より総合的な演習を目的として高度なシミュレーションに対応できるよう改良されたモデルだ。

 1号機は「田村明日香」という名のロボットで、部屋の奥にもう1体横たわっているそれだ。田村明日香は田村優子と異なり、採血などはできず、基本的な患者の動作のみをシミュレーションする。


福岡歯科大学ロボット 部屋に横たわる2体のロボット(奥:田村明日香、手前:田村優子)

福岡歯科大学ロボット 1号機「田村明日香」。ロボットもお化粧したりしなかったり。バッチリメイクしている2号優子に対し、明日香はノーメイクだった

福岡歯科大学ロボット 1号機「田村明日香」(下から)

 歯科と医科の先生が一緒にロボットを作ったら――そんな発想から、福岡歯科大学のロボットは生まれた。


福岡歯科大学ロボット 設計には外科や形成外科の先生が協力、製作はテムザックが担当した

 「ロボットはお金が掛かる。実習をするにしても、1体のロボットにつき遠隔操作する人と指導する人の2人、人員を配置しなければならない。この部屋も、ロボット専用部屋としてわざわざ学長に作ってもらった。しかし、歯科に圧倒的に足りないのは、実際に患者さんに触れる機会。それをロボットに託すことで、歯だけでなく総合的な能力を持った歯科医を育てたい」(尾崎教授)

太田智美

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