樫尾俊雄記念財団が、歴代の関数電卓などを展示する「学びと遊びの電卓・電子辞書展」を3月21日〜5月10日に実施する。これに先立ち、報道関係者向けに先行公開と説明会を行った。その中で、カシオ計算機コーポレートコミュニケーション統轄部の渡邉彰さんがカシオ「ゲーム電卓」の歴史を振り返った。
カシオから初めてゲーム電卓が登場したのは1980年8月。“バイオリズム”を計測する「バイオレーター」(1975年)、時計機能が付いた「でんクロ」(1976年)、メロディーを奏でる「カシオ メロディー」(1979年)など、付加機能を付けた「複合電卓」と呼ばれる電卓が次々と登場する中、最初のゲーム電卓「MG-880」が発売された。
「MG-880」は、右から攻めてくる数字を撃ち落とすゲーム。液晶に表示される7つのパーツをいかに駆使してゲーム性を持たせるかということに知恵を絞ったゲームだ。
そこに初めてアニメーション表示を付けたのが、ボクシングをリアルに再現した「BG-15」。「防御」「逆転」「せめぎ合い」といったゲーム要素を“狭い窓の中”に詰め込んだ。
その後、個人の運勢や2人の相性を占う機能を持った「FT-7」や囲碁ができる「TG-2」、パチンコを再現した「PG-200」、1台で3種類のゲームができる「MG-777」、高さやコースを選んで36種類の変化球が投げられる野球ゲーム「BB-9」などが登場し、ゲーム電卓は月産30万台のヒット商品になったという。
すごいのは、これらゲーム電卓の中身は、一般の電卓と同じチップが使われているということ。ゲーム用に新しいチップを開発したわけではなく、既存のチップを用いて開発した点だ。
例えば、ボクシングゲームでいえば、相手のこぶしの位置と自分の頭の位置が一致したら「当たった」と判定し、ポイントが1下がるといった仕組みだ。「知恵を絞り、点をどう表示するかを計算すれば、電卓で表示できる。これらの工夫はアニメーションにも用いられた。『L』を宇宙人に見立てたり、小さな『0』をモグラの穴に見立てて退治するなど表現した」と、渡邉さんは話す。
液晶表示だけではない。実は、ゲーム中に流れるメロディーや効果音も開発者が作曲していたという。当時、電卓の音は「ピ↑」と「ピ↓」の2種類しかなかったが、それを組み合わせることでゲーム音を作っていった。「例えば『ピ↓ピピピ↑』だと、『やったな!』という感じがする。『ピ↑ピピピ↓』だと。ちょっと残念な感じがする。こういうのをミックスし、どうすれば演出ができるかを一生懸命考えていた」(渡邉さん)
1982年、「ゲーム電卓」はついに電卓機能を省いた「携帯ゲーム」分野に進出、同年10月には月産30万台に到達した。しかし、本格的なゲームを求める層が、ゲームセンターや携帯ゲーム機にシフト。1980年代後半、ゲーム電卓の本格的な生産は終了した。
それからというもの、電卓は原点に返り「計算」を追求。わずか10年ほどのゲーム電卓の歴史は、ファンの心に今も熱く焼き付いている。
(太田智美)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR