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週休2日、8時間労働は時代遅れ――“IT国家”発の次世代型人材サービス「Jobbatical」新連載・“日本が知らない”海外のIT

» 2017年07月13日 07時00分 公開
[細谷元ITmedia]

 バルト三国最北にあるエストニアは、通話/メッセージングサービス「Skype」が誕生したことでも知られるIT国家。ここでは政府主導で、生活のさまざまなシーンにITを導入するプロジェクト「E-estonia」(電子政府化)を進めている。

 こうした社会インフラとしてITが広く普及していく中で、国民の意識や価値観にも変化が出てきているようだ。

新連載:“日本が知らない”海外のIT

日本にまだ上陸していない、IT関連サービス・製品を紹介する連載。国外を拠点に活動するライター陣が、日本にいるだけでは気付かない海外のIT事情をお届けする。


北欧のIT国家で生まれた、次世代の人材サービス

 そんなエストニア人の意識変化を体現するかのごとく登場したのが、次世代型人材マッチングプラットフォーム「Jobbatical」。Jobbaticalとは、「Job=仕事」と「Sabbatical=休暇」を合わせた造語だ。

job 人材マッチングプラットフォーム「Jobbatical」(Jobbatical公式サイトより)

 世の中には数多くの人材マッチングプラットフォームが存在するが、そうした既存サービスとどこが違うのだろうか。

 最大の違いは、ユーザーである雇用側も労働者側も「オンデマンド」を前提にしているということ。例えば、「1年間だけあるプロジェクトに関わるために入社する」というものだ。

 これはフリーランスの外部委託とは異なる。なぜなら、フリーランスではプロジェクトの深い部分まで踏み込むことができないからだ。社員になることで、より深くコミットできる。プロジェクトが完了したら、次の新天地を探したい――Jobbaticalでは、そんな次世代の働き方ができる。

 日本では直感的に理解しにくいかもしれないが、世界の労働市場、特にテクノロジー業界においてはこの傾向が強くなっている。

 実際どのような場所で、どのような求人が多いのか。国別に見るとエストニア、ドイツ、ベルギー、オランダ、スペインなど欧州のほか、中国、タイ、マレーシア、シンガポール、オーストラリアとアジア太平洋の案件が多い。ケニアやガーナなどアフリカの案件もある。

 職種は、フロントエンド開発、バックエンド開発などエンジニア向けが中心だが、データサイエンス、ビジネスアナリスト、映像プロデューサーなど多種多様だ。

「Jobbatical」生まれたワケ

 このJobbaticalが誕生した背景を知れば、世界で起こるワークシフトを理解し、Jobbaticalが注目される理由がよりクリアになってくるはずだ。

 Jobbaticalの創業者カロリ・ヒンドリックス(Karoli Hindriks)さんはエストニア出身で、16歳のときすでにビジネスを始めていた生粋の起業家だ。

カロリさん Jobbatical最高経営責任者カロリ・ヒンドリックス(Karoli Hindriks)さん(公式ブログより)

 そんな起業家精神が評価され、2007年に23歳で音楽専門テレビチャンネル「MTVエストニア」のCEOに抜てきされた。このMTV時代の経験がJobbaticalの誕生につながったという。

 当時のテレビは、決まった時間に、決まったコンテンツを視聴する一方通行のものだったが、今は好きなときに好きな場所で、好きなコンテンツを視聴するという「オンデマンド」になっている。

 ヒンドリックスさんは、これは労働市場にも当てはまると直感したという。好きなときに、好きな場所で、好きな仕事をするというオンデマンド型ワークのニーズが高まっていると考えたのだ。これは特に、彼女自身も当てはまるミレニアル世代(00年代に成人あるいは社会人になる世代)に顕著という。

 MTVなどテレビビジネスに7年ほど携わったのち、新しい挑戦を求めて別の業界に飛び込もうと決心したヒンドリックスさん。次の挑戦の前に、マレーシアで8日間の休暇をとったという。しかし、8日間何もせず過ごすのに嫌気が差し、仕事を探し始めた。

 これが、「仕事」と「休暇」が融合した「Jobbatical」という新しいコンセプトが生まれたきっかけといえるかもしれない。

 休暇中に仕事を探し始めたが、結局マレーシアでは自分のスキルを生かせる仕事が見つからなかった。このときヒンドリックスさんは、自身のように場所にとらわれず、さまざまな場所で働きたいと思っている人材が多くいる一方で、誰もそのニーズをくみ取っていないと痛感したという。このニーズをくみ取るべく、Jobbaticalは誕生した。

Jobbatical 現在、Jobbaticalには多数のマレーシア案件が掲載されている(Jobbaticalより)

加速するワークシフト、世界中で生まれる「Global Trotter」たち

 Jobbaticalがターゲットにするのは、「Global Trotter」と呼ばれる人々。世界周遊者とも訳されるGlobal Trotterだが、単に放浪するのではなく、自身の高度なスキルを生かし、行く先々でさまざまプロジェクトに参画し、知見と経験を向上させたいと考える人が多い。

 企業側もGlobal Trotterを雇うメリットは非常に大きく、特にスタートアップを中心にJobbaticalを介した採用が増えているという。

 例えば、欧州に進出したいアジアのスタートアップが、欧州出身の人材を雇う場合、欧州市場の知見を得られる。逆もまたしかり。アジア市場に参入したい欧州スタートアップはアジアの人材を雇うメリットがある。

 Global Trotterの労働に対する考え方も、スタートアップと相性がいい。スタートアップは短期間でプロダクト・サービスを開発して収益を安定化する必要があり、アウトプットにコミットしなくてはならない。週休2日や8時間労働という概念は通用しない世界だ。

 世界を歩き回るGlobal Trotterたちは、自由な時間を大切にするが、その自由は自身のアウトプット次第ということも理解している。つまり、自由を得るために、決まった時間内で自身の責任を果たすというマインドを持つ。

 このため、Global Trotterたちは週休2日や8時間労働という概念にとらわれることなく、自由を得るために高い生産効率を実現してくれる。

 このような労働マインドの変化は、Global Trotterだけに見られるものではなく、日本国内でも少しずつ浸透しているような印象だ。週休2日や8時間労働など既存の枠組みではなく、オンデマンドに好きな場所で好きな仕事をする。その代わり課された責任はきちんと果たす。

 国内でも市場変化スピードが加速する中で、オンデマンドに人材を探したいという企業側のニーズも高まっているはず。実際、Jobbaticalでは過去に数件だけだが、東京での案件が掲載されていた時期もある。

 このように、オンデマンドで職を探したい、人材を見つけたいと思う個人・企業は一度Jobbaticalを利用してみるのもよいだろう。Jobbaticalのように新しい働き方を提唱する人材マッチングプラットフォームが増えてくると、ワークシフトが一層進んでいくはずだ。

ライター

執筆:細谷元

編集:岡徳之(Livit)


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