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大手VCとのセクハラ裁判で敗訴したエレン・パオ氏、体験談「Reset」出版へ

» 2017年08月22日 16時14分 公開
[佐藤由紀子ITmedia]

 米大手ベンチャーキャピタル(VC)のKleiner Perkins Caufield & Byers(KPCB)とそのパートナーを2012年に女性差別などで提訴し、2015年に敗訴した元ジュニアパートナーのエレン・パオ氏が、自身のKPCBでの体験や裁判について綴った書籍「Reset: My Fight for Inclusion and Lasting Change」を9月にSpiegel & Grauから出版する。

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 この作品の一部が8月21日(現地時間)、米New York MagazineのWebメディアThe Cutに掲載された。

 ellen エレン・パオ氏(Twitterより)

 パオ氏は2005年に同社のパートナー、ジョン・ドーア氏にスタッフのまとめ役として採用され、パートナーを目指した。2012年に、女性であることを理由に差別されたことや、パートナーからセクハラを受けたことなどについて提訴した。

 同氏はThe Cutでの作品一部公開に寄せて、「あの裁判では私は無能で貪欲で攻撃的で冷たい悪者と見なされ、夫も私もプライバシーを壊された。なかなか当時について語る決心がつかなかったが、ようやく書けた」と語った。

 同氏によると、VC業界は横のつながりが重要で、かつ男性社会という。投資に関する有用な情報は女性を排除した夕食会やスポーツイベントで交換され、同氏はそうした情報なしに有望な投資先を開拓しなければならなかった。ジュニアパートナーが開拓した投資先を上位のパートナーが奪うこともあったという。同氏がようやく開拓した有望な投資先、米Flipboardをドーア氏と別のマネージングパートナーが奪おうとしたことを、同社のマイク・マッキューCEOに聞いて知ったこともあった(パオ氏は2012年までFlipboardの取締役を務めた)。

 また、同僚のアジート・ナズレ氏と関係を持ち、別れた後、ナズレ氏が仕事上でパオ氏をたびたび妨害したという。これについて会社に相談しても何もアクションを起こしてもらえず、女性の同僚に相談したところ、その同僚もナズレ氏に関係を迫られたことが分かった。その同僚が会社に問題を訴え、結局ナズレ氏は退社したが、退職金として1000万ドル近く獲得していたという。

 その後、パオ氏は能力不足を理由に解雇された。解雇前のサマーレビュー(人事考課)で「(パオ氏が取締役をしている)企業のCEOがパオ氏の働きに不満を持っている」と告げられ、具体的に誰が、ときいたところ、「みんな」と答えられた。

 裁判では資金も人材も豊富なKCPBに勝ち目はなく、精神的にもうちのめされる敗北だったが、「問題を共有し、差別の実態を晒さなければ、状況は決して変わらない」ので意義はあったとしている。

 同氏は現在、IT企業におけるダイバーシティとインクルージョン(個性の違う個人が互いに尊重し、生かし合うこと)の問題に取り組む非営利団体Project Includeの立ち上げメンバーとして活躍している。

 シリコンバレーにおけるダイバーシティ問題としては、スーザン・ファウラー氏が暴露した米Uberでの女性エンジニア差別や、米Binary Capitalのパートナーによる女性起業家へのセクハラ問題が明るみに出ている。

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