ITmedia NEWS > 社会とIT >
ニュース
» 2017年10月17日 12時52分 公開

バーチャル空間で車体修理――トヨタも導入“産業向けVR” 課題も

トヨタ自動車が社内でVRゲーム「修理漬け」を導入するなど、B2Bの領域でも活用が広がるVRコンテンツ。魅力もあれば、課題もあるようだ。

[片渕陽平,ITmedia]

 「修理漬け」――そんなタイトルのゲームが、トヨタ自動車の社内にある。VR(仮想現実)空間で車体からボルトを取り外す、若いエンジニア向けの教育コンテンツだ。同社はこうしたVR教材を積極的に導入している。

photo 車体からボルトを取り外すVRコンテンツ「修理漬け」

 コンシューマーゲームに限らず、製造業などB2B(Business to Business)領域でもVRの活用が広がる一方、課題もあるようだ。デルが9月25日に都内で開催した産業向けVRセミナー「VR/ARの現状と今後」で、トヨタ自動車の栢野浩一さん(エンジニアリング情報管理部 情報管理企画室 主幹)とデルの黒田晴彦CTO(最高技術責任者)が、VRの取り組みや課題を明かした。

「データにアレルギーのない世代が増えた」

photo トヨタ自動車の栢野浩一さん(エンジニアリング情報管理部 情報管理企画室 主幹)

 製造の工程でこうしたデジタルデータを使う取り組み(デジタルエンジニアリング)を、トヨタ自動車は約20年前から続けている。「現場のカイゼンの積み重ねだった」と栢野さんは振り返る。

 同社のデジタルエンジニアリングの幕開けは、2000年ごろ。CADソフト「CATIA V5」(ダッソー・システムズ)を導入し、設計を3D化したのが始まりだった。当時は、データ化した車体部品のサイズを測る機能もなく「CADで画面上に定規を作る」など、アイデアの積み重ねで足りない部分を補っていたという。

photo
photo CADで定規を作った

 クルマの3Dデータは、マーケティングや修理の現場にも活用。実際には立ち入りできない建造物の中をクルマに走らせるコマーシャル映像を作成したり、1車種につき2000枚近くもあった修理書のイラストを代替したりと、設計以外にも生かしていった。

photophoto 実際には立ち入りできない建造物の中をクルマが走る映像を作成

 そうした取り組みを10年以上続けるうちに「データにアレルギーのない世代が増えた」(栢野さん)という。さらなるカイゼンを求め、VRの導入を決めた。

photo VRを導入

 トヨタ自動車では、修理漬け以外にもVRを活用した基礎教材を制作している。若いエンジニアの中には、クルマのことを十分に知らない“新人”もいる。そうしたエンジニア向けに、クルマの構造を学んでもらうゲームや、車両誘導のトラブルを避ける訓練用コンテンツを提供する。

photo 車両誘導のトラブルを避ける訓練

 「『オーライ、オーライ』とクルマを誘導するときは、車両の斜め横に立たなければいけないが、誤って目の前に立ち、衝突してしまうトラブルがある。危険を疑似体験することで、脳にダイレクトに覚えさせられる」(栢野さん)

photo 米Microsoftが開発した「HoloLens」も採用し、現実世界のクルマに修理書やパーツを重ねて表示する取り組みも

広まるVR導入、課題も

photo デルの黒田晴彦CTO(最高技術責任者)

 「VRは娯楽のイメージが強いが、B2B向けにも使われるようになってきた」――デルの黒田CTOはそう話す。VR空間で人体を見たり、天体を眺めたりという教育分野での活用に始まり、トヨタ自動車の例のように、職場でのトレーニングにも広がっているという。

 「例えば(空港の作業員が)飛行機にタラップを取り付ける訓練。実際にそうした設備を用意するには手間がかかり、訓練時間も限られるが、VRだとそうした心配がなく効果が出やすい」

 一方、課題もある。VRコンテンツを体験している人の動きに合わせ、リアルタイムでVR映像を生成して映し出すという、処理能力が高いマシンが必要になることだ。黒田CTOによれば、一般にVR映像のフレームレート(1秒間当たりの映像コマ数)は30fpsだが「現実感に欠ける部分がある」といい、ユーザーが遅延を感じないためには60〜90fpsが望ましいという。

 ユーザーが動いてから映像の反映にかかるまでの時間は、20ミリ秒以内でないと違和感が生じるとも、黒田CTOは指摘する。「動きに対して、本当に見えるはずの景色が遅れて出てくると“VR酔い”が起こる」

 技術的な課題だけではない。VRコンテンツを導入する現場が“上司を説得”するというハードルもある。黒田CTOは「まず試しに作る」(PoC、Proof of Concept)という発想が必要と主張する。「最初は言葉での説得だけでなく『実体験』が重要。『VRなんてゲームだろう』と却下されても、1〜2分ほどの短いコンテンツを作り、小さく、早く、試してもらうことに意味がある」

「大人になると想像力に陰りが出る」

 「大人になると想像力に陰りが出る」と黒田CTO。幼少期の想像力の豊かさを補ってくれるのが、VRの魅力という。「コンピュータがない時代、昔話や空想科学の小説を読んで、文章から脳内でイメージを想像していた。だが、大人は文章を読んでも過去の経験に照らし合わせるだけ。瑞々しい心が失われていく」

 VRは、そうした幼少期の“ワクワク感”を思い出させるという。「このワクワク感をマーケティングに持ち込むと、購買意欲に直結するパワーを生む」(黒田CTO)

Copyright© 2017 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.