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色を音に変換 色覚障害の男性、頭蓋骨に“アンテナ”付け音楽奏でる

» 2017年12月15日 12時03分 公開
[太田智美ITmedia]

 頭蓋骨に“アンテナ”を埋め込んだサイボーグが、日本に初来日した。彼の名は、ニール・ハービソン(Neil Harbisson)。生まれつき色覚障害があった彼は、21歳のときにアンテナのような特殊な機械を頭蓋骨に埋め込み、色の周波数を音に変換。骨伝導を通じて、色を音で識別できるようになった。そこから感覚が拡張され、音を色としても認識できるようになったという。

 そんな彼が、12月13日に開催された自動車ブランドLEXUSのブランディングイベント「CREATORS EXPERIENCE」のゲストとして登場した。ニール氏は、車のエンジン音を色で表現したり、車体の色を音にして音楽を奏でたりといった「サイボーグアート」と呼ばれるパフォーマンスで会場を沸かした。


Neil Harbisson ニール・ハービソン氏

 色を音に変換する仕組みはこうだ。頭に付けられた機械の先端に周波数を読むセンサーが取り付けられており、そこで取得した周波数を電子化して頭蓋骨に振動として伝達。その振動が骨を通過すると、音として聞こえるという。彼が聞く音は、Wi-Fi経由でPCに送ることができ、第三者にも聞こえるようになっている。

 色にはそれぞれ決まった周波数があるが、それとは別の色の設定値をニール氏は決めているという。赤は363.797Hz、オレンジは440.195Hz、黄色は462.023Hz、緑は478.394Hz、シアンは551.154Hz、青は573.891Hz、バイオレットは607.542Hz。それを基に、さらに独自に色と音を関連付け、赤をF、オレンジをF#、黄色をG、黄緑をG#、緑をA、スプリングをA#、シアンをB、アジュールをC、青をC#、バイオレットをD、マゼンタをD#、ローズをEとしているそうだ。

 パフォーマンスでは、先ほどの音色変換を基に、LEXUSの車体カラー5色を変換。ネーブルスイエローはG、ラディアントレッドはF、スパークリングメテオメタリックはC#、マダーレッドはF、ストラクチュラルブルーはDとして設定。それを頭に付けたセンサーで読み取り、Wi-Fi経由でPCから音を鳴らした。


Neil Harbisson

同じカラーでも光沢などによって音のうなりが変化する

 LEXUSは同じ「赤」でも何層ものカラーリングを施しているらしく、「通常1色だと1トーンだが、何層ものカラーリングがあることで音のうなりが発生している」とニール氏は言う。

同じカラーでも光沢などによって音のうなりが変化する

エンジン音を色で表現

 音を色で表現するデモでは、とあるメーカーの一般車とLEXUSのエンジン音が比較された。黄色とオレンジで描かれているのが一般車、虹のようなカラーで色の移り変わりが滑らかな方がLEXUSのエンジン音だという。


Neil Harbisson とあるメーカーの一般車のエンジン音

Neil Harbisson LEXUSのエンジン音

サイボーグはAIではない 「AS」だ

 ニール氏は21歳の時、テクノロジーを外部に付けるのではなく、自分自身がテクノロジーになることを決めた――「言及しておきたいことがある。よくAI(人工知能)という言葉を耳にするが、ぼくの付けているものはAIではなく『AS』(Artificial Sense=拡張した感覚)。また、VR(Virtual Reality)やAR(Augmented Reality)ではなく『RR』(Rebuild Reality=普通は感じることのできない感覚を感じること)」(ニール氏)

 「ぼくには世界に5人の友人がいて、彼らと自由にデータのやりとりをしている。例えば、ロンドンの友達がとったデータをこちらで受けとると、夢の中でカラーを見ることができる」(ニール氏)。実は、センサーと一緒にインターネット機能も埋め込み、遠隔でのデータのやりとりもできるのだという。


Neil Harbisson 「よく、『黒人』『白人』という言い方をするが、実際は白と黒ではなくてオレンジ。オレンジが薄いか濃いかの違いしかない」(ニール氏)

 しかし、ここまでの道のりは容易ではなかった。医師に移植をお願いした当時は倫理的理由により多くの医師に断られ、「名前を出さない」ことを条件にやっとのことで引き受けてくれる医師を見つけたそうだ。2004年には、パスポートの写真に“アンテナ”を含む自分の写真を載せることを認めてもらうためイギリスの政府に直談判したという。


年数を重ねるごとに変化する“アンテナ”の見方

 埋め込むデバイスを“アンテナ”のようなものにしたのは、自然界の生物の中にこの形のものを持っている割合が大きかったから。興味深いことに、この“アンテナ”の見方は変化していったという。

 04年、この“アンテナ”を見た人々は「読書をするときのライトが付いている」と思ったそうだ。06年は「マイクロフォン」のように見えていた。07年には「携帯電話」のように、08年には「GoProカメラ」が付いていると思い、彼の目の前で手を振る人が現れた。13年には、Google ストリートビューかGoogle Glassのようなものだと思われ、今ではセルフィ―のためのカメラかポケモンだと思われているそうだ。

 「何千年物歴史を返して動物は進化してきたが、ぼくはこれが倫理的な判断だと思ってやっている。いつか暗闇でも目が見えるようなものを埋め込んで、人間自身が光を読み取れるようになったら、地球の電気を増やすのではなく減らすことができる」


Neil Harbisson ニール氏は新しい試みとして、頭に時間のセンサーを埋め込むことを考えているという。そのセンサーが一周すると24時間。「いずれ、時間の感じ方もコントロールできるようになるのではないか」と期待している

 LEXUS担当者は言う――「テクノロジーは人の感性を閉じてしまうこともある。しかし、使い方によっては感性を開いてくれる。LEXUSははそういうテクノロジーの使い方をしたいと考え、ここにニールを呼んだ」

太田智美

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