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「森のくまさん」騒動からJASRAC問題まで……著作権10大ニュースで考える、情報社会の明日はどっちだ?寄稿・福井健策弁護士(1/4 ページ)

» 2017年12月26日 10時00分 公開
[福井健策ITmedia]

 10大ニュースというのは好きじゃない。「今年の映画ベストテン」なら、わかる。関係者の努力をたたえて、そしてまだ見ていない人はこれから見たい気にさせるからだ。でもニュース10本集めてどうする? ニュースは何といっても起きてる時が圧倒的に面白い。それを年末に振り返ってる段階でもう全然「ニュース」じゃないだろう。出た瞬間に見あきててそうで、これがなんで楽しいのかと思っていた。

 ところが受けたのだ。今月NHK大阪にお招き頂いて講演をした際の、主催者側の要望が「著作権10大ニュース」だった。またまたあ、と思いながらやってみると、さすが企画のプロ達である。10個集めてみると確かに情報社会の今がじわっと浮かび上がって、「これはパッケージ化して全国講演で回るべきです」とさえ言って頂いた。いや色々ダメだろう。もう暮れで、年が明けた後の10大ニュースの賞味期限なんてそれこそ鏡もちがカビるより早い。今しかない。なのでコラムで書いている(ちょっとニュースを入れ替えた)。

1.パーマ大佐版「森のくまさん」とパロディの限界

 まずは1月に飛び込んで来た「森のくまさん」パロディ論争である。復習のために、ここで見て頂こう。あまりの人気に動画が作られて600万再生くらいされてるのだが、筆者はやっぱりこのTV登場時の勢いが一番だと思う。

動画が取得できませんでした

 だがこれにクレームがついた。訳詞家、というか実質は作詞家に近いらしい馬場さんという方からだ。どんなクレームだったかというと、「著作者人格権の侵害」である。これは著作権とは別な、作品を無断で改変すると登場する権利。JASRAC(日本音楽著作権協会)の管理外で、だからJASRACでは編曲や改変の許可は出せない。

 では替え歌はどうか? 例えば元歌詞が半分残っていて半分変えてるなら、これはもう堂々の「改変」だろう。他方、歌詞を完全に別歌詞に入れ替えた場合、元歌詞は使ってないのだから改変ではなく著作権上の問題はない、という見解が実は有力なのだ。

 パーマ大佐版はどうか?よく見てみると、元歌詞は別にいじっていない。単にその間に「ひとりぼっちの私を強く抱きしめたクマ♪」などを挟み、すると全然違うストーリーになったというものだ。みんな元がどんな歌詞だったかよくわかって見ている。それでも元歌詞の改変だろうか? 存在を許されないのか? 結局このケース、和解が成立してパーマ大佐は無事歌えているのだが、パロディ問題の奥の深さを見せつけた事件だった。(関連コラム『森のくまさん』を追いかけろ −替え歌と著作権法の気になる関係

2.キュレーションサイト大量閉鎖の余波続く

 よし次行こう。昨年暮れ、ネット界を巻き込んだ「まとめサイト」の炎上・大量閉鎖。中心となったディー・エヌ・エー(DeNA)では、「MERY」や「WELQ」など37万もの記事が「パクリが多い」と言われ公開中止に追い込まれている。

 3月に公表された第三者委員会報告書によると、記事の著作権侵害率は1.9〜5.6%。比率のばらつきはサンプル抽出による標本誤差である。意外に少ないと思う方もいるかもしれないが、これは裁判所の著作権侵害の基準は結構高く、世間がパクリと感じるうちのかなりの割合は違法とはならないためだ。それでも十分パクリは多い、と第三者委員会。特に、画像は472万点超のうち74万点以上が許諾の確認できない他のブログなどからの借用、とされた。

 背景は大量の記事を出さないと生き残れないネットメディア界にあって、「1記事1000円」などの極めて廉価で記事が発注されたためだとされる。そんな金額で暮らせるプロのライターはいない。よって学生バイトなどが動員され、粗製濫造も増え、勢いコピペも増えたという訳だ。万人が発信者となる、コンテンツ過剰の時代の産み落とした影の部分といえる。(関連コラム:DeNA報告書276ページを15分でざっくり読む 彼らは何を間違い、我々に何を残したのか?

3.JASRAC vs 京大、これは引用か?

 3本目はついに今年の主役、JASRAC登場である。4月、京都大学の入学式式辞で山際総長がボブ・ディランの「風に吹かれて」を引用した。するとしばらくしてJASRACから問い合わせが入り、ネットは「これは引用だから自由だろ!」と沸いた。一体どんな式辞だったのか。全文はこちらで読める。

 この言葉で迎えられた今年の京大生たちは幸せだな、と筆者は思う。

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