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漫画の海賊版サイト、問題の深刻さとブロッキングの是非  福井弁護士の考え(2/3 ページ)

» 2018年04月10日 09時00分 公開
[福井健策ITmedia]
  1. 海外の権利執行の難しいサーバ上でサイトが運営されている
  2. 身元を隠してそれを運営できる技術が発達している
  3. 海賊版コンテンツにリンクを貼るだけの行為は、伝統的に適法と考えられてきた

 筆者自身の経験や報告された例からは、と言ってもあまり詳細は書けないので恐縮だが、こうしたサーバの多くは旧共産圏などにあり、それをこじ開けるのは極めて困難だ。

 具体的には、確信犯的なサーバ事業者への削除要請や情報開示請求は無視される率が高く、企業に対する海賊版サイトへの広告出稿停止要請も広告配信の仕組みが複雑で実効性は限定的な上、海外事業者には及びにくい。

 ドメイン停止要求も、海賊版サイトが利用している多くのレジストラは非協力的とされる。検索エンジンは検索結果削除には協力的で大量に行われているが、それでも海賊版サイトへのアクセス数は増える一方だ。現に、「漫画村」をはじめ悪質な海賊版を止められていない現状がある。

 それでも時間をかけて相手のミスなどをついていけば最後には特定できるため、17年も大規模摘発があった。よって海賊版業者には稼いだお金の勘定などはやめて自首することを真剣に勧めるが、とはいえ追い詰めている間は膨大な被害が続くし、仮に漫画村が今後摘発されるとしても17年に問題になってから少なくとも8カ月は要したことになる。そして1つの海賊版サイトが閉鎖されても、数カ月もすれば後継サイトに数千万人が集まるだろう。

サイトブロッキングは効果があるのか?

 だから、現行法だけではもう限界があり、前述の「サイトブロッキング」導入検討につながったのだろう。実際には日本でも児童ポルノのサイトブロックは既に行われており、海賊版サイトのブロックもEU(英独仏伊西ほか)・韓国・オーストラリアなど既に42カ国で導入されている(知的財産戦略本部資料7頁)。

ブロッキング 諸外国におけるサイトブロッキングの運用状況知的財産戦略本部資料7頁

 無論これとて多くの限界があるが、それでも英国のサイトブロックでは53の海賊版サイトへのアクセスが90%減り(他の海賊版サイトへのアクセスは有意に増えず)、正規版の売上も6〜10%増加したというデータもある。対策の手詰まりが進む中、比較的有望には違いないのだろう。

売上減少は出版社の責任では?

 この点、「海賊版の暗躍を許すのは出版社や電子書店の努力不足」という発言も目にする。「音楽配信を見習って横断的な定額読み放題サイトを設けないから、海賊版が暗躍するのだ」といった論調だろうか。なるほど、一理あろう。出版社の努力は必要だし、より読みやすいサービスへの進化は避けられない。

 ただ、海賊版の話とそれを混同するのは別だ。例えばスポーツでのドーピングが問題になっているときに、「一般の選手もドーピング選手に負けないようにもっと努力すべきだ」とは誰も言わないだろう。努力は努力で当然行い、ドーピングはドーピングで絶対的に悪いから禁止しているのである。

 そもそも、どんなに電子書店が営業努力して見やすいお得なサイトを構築しても、タダでばらまいている海賊版サイトには絶対に勝てない。なぜか。海賊版は決定的に重要なコストを負担していないからだ。

 それは、マンガを生み出すためのコストである。漫画家と編集者とアシスタントたちの給与を負担せず、彼らの徹夜や努力をシェアせず、単に奪ってばらまけば無料にもできるし、広告収入だけでもボロもうけだろう。海賊版サイトはしばしば億単位の収益を報道されている。

 現在の異常な事態が続けば、雑誌や電子コミックサイトの倒産も現実的になる。そうなっても残るマンガや新たなビジネスは無論あるだろうが、現在海賊版サイトで読者が殺到している人気マンガたちはもう生存を続けられない可能性は大だ。海賊版の最大の被害者は、読者なのである。

ではどう導入すべきか:立法か、緊急避難か?

 さて、恐らくここまでは同意見の論者も多いだろう。意見が分かれたのは特にブロッキング導入の道筋である。電気通信事業法の「通信の秘密」(4条)などを害する以上、きっちり要件を定めた立法で導入すべきであり、報道された「緊急避難」は当事者が恣意的に解釈できるので危険だ、という意見も有力に主張されている。

 ここで「緊急避難」とは、たとえ通信の秘密の侵害であっても、(1)現在の危難(ここでは甚大な海賊版被害)、(2)補充性(≒ほかに有効な対策がないこと)、(3)法益の権衡(≒失うものより得るものが多いこと)、の3つの条件がそろえば違法とみなさない法理で、刑法37条に規定がある。児童ポルノは現にこれでブロックされているのだが、あくまで例外的措置であり、懸念ももっともだろう。

 ところで、ここで議論の大前提を確認しておこう。海賊版のブロックは果たしてどの程度に「通信の秘密の侵害」なのだろうか。

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