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» 2018年04月10日 09時00分 公開

漫画の海賊版サイト、問題の深刻さとブロッキングの是非  福井弁護士の考え (3/3)

[福井健策,ITmedia]
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 一般に議論されているサイトブロックは「DNSブロッキング」といわれる手法で、ユーザーが特定の海賊版のドメインをDNSサーバに送ると、その海賊版のIPアドレスが返される。これを使ってユーザーは海賊版サイトにアクセスするのだが、この海賊版のIPアドレスを返さないことを指す(知的財産戦略本部資料、6頁図)。

サイトブロッキング サイトブロッキングの概要(知的財産戦略本部資料、6頁図)より

 これは、誰の通信の秘密を害するのか? 恐らく「海賊版を見ようとしたユーザーの秘密が害された」というのだろう。ただし、「通信の秘密」は「通信当事者以外の第三者が、通信の内容又は存在を知得・窃用し、または、秘密を知得した者が第三者にこれを漏洩すること」などと一般に定義される(最高裁判例解説2004年239頁)。「メールの中身や宛先が漏えいされた/第三者に取得された」といった場面が典型例で、通常は第三者の存在が前提だ。

 DNSブロッキングは、直接的にはISPがIPアドレスのリクエストに応じないことを言い、ユーザーとの両者間で完結している。海賊版サイトにアクセスしたいという要求が機械的・技術的に拒否されることが、上の典型的な通信の秘密侵害の場面と同列だとは考えにくい、という見解もあるところだ。

 筆者もここは同感で、サイトブロックが衝突するのはむしろ、サイト側の「表現の自由」であり、ユーザー側の「知る権利」の方ではないかと思える。見なければ、どんなサイトか分からないからだ。それはそうなのだが、「海賊版を頒布する表現の自由」や「タダで海賊版マンガを読みたいという知る権利」が現在の深刻な被害に優越する法益だとは、やはりどうも思えない。

 にもかかわらず、「本来は立法対応すべき」という結論には全く同感である。理由は、恣意的な拡大解釈への懸念の一点だ。違法性の低い/微妙な、しかし一部の人々は気に入らないようなサイトへのアクセスが遮断される事態はあってはならないからだ。

 この濫用(オーバーブロッキング)の防止が、筆者が見る限り多くの論者の懸念の本質だった。その意味ではサイトブロックするからには立法しての対応こそが本丸だし、早急に検討の場を整えるべきだ。そもそも、海賊版サイトは今後も現れ続けるだろうから、抜本的な仕組み作り無しにしのげるはずがない。

 ただし、この種の立法は関係者一同が本気で協力して高速で進めたとして1年、通常は優に数年かかるだろう。それまで現在の事態が進行して果たしてマンガの現場がもつか。残念ながらとてもそうは思えない。「ここまで放置した方が悪い」という意見もあるだろうが、従来総務省などがブロックに消極的だったことは周知だし、17年からの急激な悪化で必要性が一気に増したのも事実だ。そして、「どんなに事態が切迫しても、将来恣意的な運用の前例になるといけないから緊急対応はしない」という立場に、筆者は立たない。

 現在、海賊版サイトにより月間数十億PVかそれ以上の規模で無料視聴されている作品は、クリエイターたちの生存の糧だ。被害規模がここまで甚大では、もはや職業としての存続の問題だろう。あるべき立法の論議を条件として、漫画村のような破壊的なケースに絞った緊急ブロックだけは、児童ポルノと同様にISPの自主的対応としてすべきではないだろうか。

 ただオーバーブロッキング防止のための基準は厳格であるべきだ。全くの私案だが、(1)海外に存在する海賊版頒布を主目的としたサイトであること、(2)権利者による削除要請と身元開示のいずれにも応じないこと、(3)日本からのアクセス数が、現在最も深刻な海賊版サイトを参考に定めた一定値以上であること、などがあり得る。

 権利者が客観的な事実を示し、そして自主対応である以上、最終決定権はあくまでISPが持つ。またISPに政府も加わった了解事項として、こうした緊急措置には一定の時限を設けることも考えられるだろう。

 最後に1つ。緊急対応をしないならもちろんだが、仮にしたとしても海賊版のまん延には恐らく歯止めがかかる程度だろう。それほどオンライン海賊版の勢いは強い。ではどんな実効的な対抗策があるのか。作品を生み出し続けるビジネスモデルをどう作っていくのか。こうした言論の場も利用して、今まで以上に現場と社会が共に知恵を絞っていけるかに、マンガ・アニメの未来はかかっている。

著者プロフィール

福井健策

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弁護士(日本・ニューヨーク州)/骨董通り法律事務所代表パートナー/日本大学芸術学部・神戸大学大学院 客員教授1965年生まれ。神奈川県出身。東京大学、コロンビア大学ロースクール卒。著作権法や芸術・文化に関わる法律・法制度に明るく、二次創作や、TPPが著作権そしてコンテンツビジネスに与える影響についてもいち早く論じて来た。著書に『著作権の世紀――変わる「情報の独占制度」』(集英社新書)、『「ネットの自由」vs.著作権』(光文社)、『誰が「知」を独占するのかーデジタルアーカイブ戦争』(集英社新書)、『18歳の著作権入門』(ちくまプリマー新書)などがある。Twitterでも「@fukuikensaku」で発信中。

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