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» 2018年04月19日 14時00分 公開

「ブロッキングの前にやるべきことある」 ISPや弁護士が考える「海賊版サイト対策」とは (1/3)

ISPの業界団体や弁護士などが、ブロッキングの問題やそれ以外の海賊版サイトへの対策方法について緊急シンポジウムで説明した。

[井上輝一,ITmedia]

 「ISPによるサイトブロッキング(遮断)という“一足飛び”の結論の前に、やれることがあるはずだ」――政府がISPに対し、自主的に海賊版サイトへのアクセスを遮断するよう促すと決定したことを受け、ISPの業界団体や弁護士などがブロッキングの問題やそれ以外の対策方法について、コンテンツ文化研究会主催の緊急シンポジウムで解説した。

 登壇したのは、一般社団法人インターネットプロバイダー協会(JAIPA)の立石聡明さんと野口尚志さん、一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)の中川譲さん、主婦連合会の河村真紀子さん、森亮二弁護士と上沼紫野弁護士。

ブロッキングの前にできること

海賊版サイトとブロッキング検討の流れ(ITmedia NEWS作成)

 「DNSブロッキング」は、国民の権利である「通信の秘密」を侵害するため違法・違憲の恐れがある(詳解は後述)と、JAIPAや婦人団体・全国地域婦人団体連絡協議会、自民党の橋本岳衆院議員などが声明を出しているのは既報の通り。

 シンポジウムでは、ISPがブロッキングを導入する前にやるべきこととして、(1)プロバイダ責任制限法による情報開示請求、(2)米国のデジタルミレニアム著作権法(DMCA)による取り下げ、(3)フィルタリングによる青少年のアクセス制限、(4)書籍など静止画のダウンロードについての法律作り──などを進めるべきという意見が出た。

外国事業者も日本法で裁ける

上沼紫野弁護士(専門分野は知的財産権やIT系の法務、国際契約など)

 プロバイダ責任制限法は、権利侵害情報を流通するプロバイダーの責任や免責などについて定める法律。被害者は第4条の情報開示請求権を用いてプロバイダーに発信者(加害者)の情報開示を求められる。ただ、プロバイダーが誤って情報開示した際の免責はないため、「裁判で権利侵害を明らかにした後に情報開示することが多い」と、知的財産権やIT系の法務、国際契約などを専門とする上沼弁護士は説明する。

 海賊版サイトのプロバイダーが海外にある(とされている)ことが今回の問題を難しくしている1つだが、上沼弁護士は「民事訴訟法第3条の3の5号」により、「日本において事業を行う者に対する訴えで、その訴えが同者の日本における業務に関するものであるとき」には外国事業者を日本の裁判所で訴えられると説明する。「日本語でサービスを行っている以上適用できるはず」と上沼弁護士。16年にドワンゴが米国ネバダ州法人のFC2を提訴できたのも、日本語でサービスを行っていたからだという。

 外国事業者に対する準拠法も、「加害行為の結果が発生したのは日本である」と考えられることから日本の法律で裁けると上沼弁護士は考える。

著作権侵害ならDMCAも有効

 また、米国のDMCAにも言及。DMCAは、米国内のプロバイダーが著作権侵害の報告を受けると、それが虚偽だとしても機械的に当該コンテンツを削除できるとする法律。DMCAによるコンテンツ削除では、削除された発信者に削除請求者の連絡先を通知する取り決めとなっており、プロバイダーの責任を問わない形になっている。

DMCAの「Notice and Take down」の説明

 名誉毀損(きそん)やプライバシーの侵害についてはDMCAでは取り扱わないため、「これらに比べれば、著作権侵害に関しての訴えはやりやすいはずだ」と上沼弁護士はいう。

フィルタリングなら通信の秘密の侵害には当たらない

 上沼弁護士は、「子どもを守る立場からすると、まずフィルタリングをしてほしい。日本の子ども(が持つ端末)はほとんどフィルタリングされていない」と現在の青少年に対するフィルタリングの実情を指摘。

 「フィルタリング業者に聞くと『漫画村』もフィルタリングの対象にしている。フィルタリングをすることで、ここはセキュリティ上まずいサイトなんだということをお子さんに知ってもらいたい」(上沼弁護士)

 「フィルタリングは手元で同意の下行うため、通信の秘密の侵害には当たらないし、フィルタリングを突破して海賊版サイトを見るような子はDNSブロッキングもどうせ突破する」と、DNSブロッキングの限界とフィルタリングの合法性を説明する。

JAIPAの立石聡明さん

 なお、JAIPAの立石さんは「(フィルタリングを可能にするまで)実はいろいろなことがあった。とにかく『臭いものにふたをしろ』の状況で、子どもの知る権利はどうなのだろうか」とフィルタリングに対する疑念も呈した。


ダウンロード違法化した音楽・映画と、法的整備がない書籍

 上沼弁護士は、音楽や映画はインターネット上の著作権について整備されてきた一方で、書籍や静止画についての著作権の法的整備が進んでいないことも指摘する。

 「音楽や映画については、違法なコンテンツをダウンロードすることも違法だという法律を作り、違法ダウンロードに刑事罰まで定めた。しかし、書籍など静止画については定められていなかった。(音楽や映画のような立法過程を踏まずに)一足飛びにユーザーの行為(サイトへのアクセス)を遮断していいのか、という疑問がある」(上沼弁護士)

主婦連合会の河村真紀子さん

 また、主婦連合会の河村さんは「リーズナブルな価格で合法的に見られるサービスが整備されていくといいと思う。海賊版サイトへの対策と平行して、そういった合法的で魅力的なサイトの整備がセットで進んでいくべき」と、合法的な対抗サービスの出現に期待する。


MIAUの中川譲さん

 MIAUの中川さんも、「私自身、音楽などのストリーミングサービスに月6000円ほど払っている。これくらいストリーミングサービスが当たり前になってくると、違法なものをDLする需要もなくなってきている。漫画も(音楽や映画と)同じ状態に近づけば違法サイトの問題はなくなるのではないか」と河村さんに同意した。


DMCA、本当に有効か

 このように、シンポジウムのメンバーはDNSブロッキングへの懸念をあらためて示し、他の方法を模索・試行すべきだとした。

 一方で、シンポジウムを聴講した参加者からは「実態に即していないのでは」という声も聞こえた。権利者から依頼を受け、コンテンツ削除の代行を行っているというAさんは、「キャッシュサーバである米Cloudflareに対しDMCAに基づく申請を繰り返し行ってきたが、基本的に無意味だった」という。

 「漫画村など海賊版サイトが利用する配信サービスの米Cloudflareは、配信元のサーバデータを一時保管しているだけなので、申請を送ってもコンテンツ削除には応じない。申請から24時間以内に配信元の連絡先は通知してくれるが、大抵がオランダやロシア、スウェーデンといった米国以外のサーバ会社であるため、DMCAは効かない。英語が通じない国の会社であることに加え、海賊版サイト運営者もコンテンツ削除要請を受け付けないような会社と契約しているので、Cloudflareから得た情報だけではどうしようもないのが実情」(Aさん)

 「Cloudflareは海賊版サイト運営者の契約情報を持っているはずだが、それを聞き出すには日米の警察が協力して働きかけるしかないだろう。それが本当にできるのか」とブロッキング以外の手法の実効性について疑問を持ったという。

 他方で、漫画村が4月11日ごろにGoogle検索から除外されたことについては、米Googleに対する複数社のDMCA申請が有効に働いたと見られている。コンテンツ削除には届かないまでも、全くの無意味ともいえなそうだ。

 「海賊版サイトへの対策をすべき」という見解はこの件に関わるほぼ全てのメンバーの共通認識だが、どのように対策すべきかはそれぞれの立場で手探りの状況だ。

(2018年4月19日午後3時30分追記:上沼弁護士と森弁護士の専門分野について追記いたしました)

(2018年4月20日午後0時30分修正:第1段落の、政府のブロッキングへの現在の姿勢について表現を修正いたしました)

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