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» 2018年04月20日 09時00分 公開

“日本が知らない”海外のIT:世話すると良く光る? 光合成で発電 オランダのエコな27歳が「照明になる観葉植物」開発

環境意識の高まる欧州で、27歳のプロダクトデザイナー率いるチームが植物の光合成による発電を利用した「照明になる観葉植物」を開発。空気の浄化による発電にも取り組んでいるという。

[中井千尋,ITmedia]

 欧州では、1960年代から各国政府による環境保全に対する取り組みが始まり、近年企業の動きもますます加速している。実際、2000年〜12年の間で環境製品や環境サービス関連の雇用は290万人から430万人にまで増えている。

 環境意識の高まりは市民レベルでも。畜産が温室効果ガスを多く生み出すことに対する懸念から、ビーガン(肉や魚だけでなく酪農製品も食べない完全菜食主義者)が流行。スーパーのレジ袋は有料で、ほとんどの人がエコバッグを利用しているほどだ。

 オランダで一昨年大学を卒業したばかりの若手プロダクトデザイナーのエルミ・ウース(Ermi van Oers)さんも、環境保全のための挑戦を続けている1人。

 27歳の彼女が現在取り組んでいるのは、ヴァーヘニンゲン大学が開発した、植物の光合成システムを電力に変える技術の実用化。自然いっぱいの田舎で育った経験から「植物発電」による照明作りに取り組んでいる。

植物 観葉植物であり、照明でもある「Living Light」

連載:“日本が知らない”海外のIT

日本にまだ上陸していない、IT関連サービス・製品を紹介する連載。国外を拠点に活動するライター陣が、日本にいるだけでは気付かない海外のIT事情をお届けする。


光合成による発電と電池の発電方法は似ている

 オランダ第2の都市であり、欧州最大の港を持つロッテルダム。ここに拠点を置くエルミさん率いる全7人のチームが開発中の製品は、照明の機能を持つ観葉植物「Living Light」だ。

 Living Lightはプランターに微生物燃料電池を組み込んだ、一見普通の観葉植物。一味違うのは、植物の光合成システムを利用して電球に光をともすということ。

 植物は光合成をする際に、有機化合物を土に放出するが、これにより土中のバクテリアが電子と陽子を作り出す。この一連の流れ、実は電池が電力を作り出す方法と類似しているという。Living Lightはこれを活用して植物から電力を作り出し、LEDランプを点灯させる。日中太陽の下に置いておくことで、約1時間光が持続する。

電力 電力は意外にも身近なモノから作り出せる

 そして面白いことに、植物の状態が良好であればあるほど、多くの電力を作り出せるという。つまりきちんと世話をすれば、「明かり」という目に見えるカタチでそれに応えてくれるのだ。まるで観葉植物と会話ができるかのような、ユニークなプロダクトだ。なお、万が一枯らしてしまった場合は植物のみの交換も可能だが、新しい植物は鉢植えに植えられてからその環境に慣れるまで時間がかかるので、その間は発電量が少なくなるという。

 Living Lightの照明は、上の画像のようにボワっとした柔らかい光。下から観葉植物を照らし、枝や葉が壁に映し出されてなんとも幻想的だ。これ1つで部屋の照明を賄うことは難しいかもしれないが、間接照明やキャンドルなどを好み、蛍光灯などで部屋全体を明るく照らすことを嫌うオランダ人らしいアイデアだといえる。

 18年中に初回受注分50鉢の発送を目指しているが、現在電力の供給を安定させるための最終作業中であり、具体的な発送時期は未定。価格は1鉢1500ユーロ(約20万円/予約注文はWebサイトから可能)。新しい技術であり、初の製品化であることから高額になることは避けられないのかもしれない。どのように大量生産し価格を下げていけるかが今後の課題になるだろう。

市とコラボレーションし、「公園」の開発も計画中

 エルミさんのチームはLiving Lightを実現するため、植物を用いた微生物燃料電池を活用した製品を開発する「Plant-e」とコラボレーションしている。Plant-eは、この技術を開発したヴァーヘニンゲン大学環境技術研究室のスピンオフにより創業したスタートアップだ。

 美大でプロダクトデザインを学んだエルミさんは、在籍中に人間と自然とテクノロジーの共存について研究していた。そこで出会ったのが微生物燃料電池。この技術に興味を持った彼女はPlant-eにコンタクトを取り、彼らとやりとりする中でLiving Lightのアイデアを着想。大学を卒業した16年、彼女はLiving Lightの製品化に向けてチームを結成した。

エルミさん 持続可能な世界への強い思いを持つエルミさん(エルミさんの個人Webサイトより)

 彼女らはLiving Light以外にも、植物発電の技術を活用する方法を模索している。例えば、ロッテルダム市とのコラボレーションで19年6月の実現に向けて取り組んでいるのが、植物発電を取り入れた公園「Living Park」の開発。人が植物の近くを通ると、植物発電により作られた電力で照明がともるというインタラクティブな公園を計画中だ。

「Living Park」のイメージ

 またPlant-eは、農作物の水分量や土の温度などを測定して必要な農作業を可視化し、収穫量の増加を目指すセンサーを開発するPycnoとのコラボレーションで、センサーが必要とする電力を植物発電で賄えるようにする開発を行っている。これにより、センサーが二酸化炭素や発電による廃棄物を排出することなく稼働できるようになることを目指す。

空気を浄化して発電、再生可能な発電の研究は隣国ベルギーでも

 欧州では、他にも安全かつ環境に優しい再生可能な発電方法の研究が進められている。オランダの隣国ベルギーでは、ルーヴェン・カトリック大学の研究者たちがアントワープ大学とコラボレーションし、空気が浄化される行程から電力を作り出すことに成功したという。

 この発電方法では、汚れた空気がナノマテリアルで作られた膜を通る際に水素ガスを発生させ、空気を浄化すると同時に電力も作り出す。研究者によると、発電の仕組みはソーラーパネルによる発電方法に似ているという。作られた水素ガスは保管が可能で、すでに各国で導入されている水素燃料エンジンを搭載したバスなどに利用できる。

空気 空気清浄機がコンセントいらずになる時代が来るかもしれない

 この研究は、まだ数センチの装置で実施されているだけで、さらなる研究と開発が必要ではあるが、大気汚染と発電による環境破壊や温暖化などを同時に解決できるかもしれないこの技術に、今後注目が集まりそうだ。

 電力は私たちの生活に欠かせないもの。しかし、その発電方法には環境破壊や資源枯渇など大きな課題がある。日本で消費する70%の電力を生産する火力発電は、地球温暖化の原因となる大量の二酸化炭素を排出している。また原子力発電では、地中に埋めることでしか処理できない核廃棄物を作り出す他、万が一の事故による影響も計り知れない。

 今回紹介したような、安全かつ環境に優しい再生可能な発電方法が現状求められていることは確かだ。植物を用いた微生物燃料電池と、空気の浄化による発電――次世代の発電方法の今後に、期待が膨らむ。

執筆:中井千尋

編集:岡徳之(Livit


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