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同じ画像なのに違う絵が見える 不思議な「スーパーハイブリッド画像」とは?コンピュータで“錯視”の謎に迫る(2/3 ページ)

» 2018年05月23日 08時00分 公開
[新井仁之ITmedia]

なぜ距離によって違った画像が現れるのか

 ハイブリッド画像でその仕組みを説明します。そのためには空間周波数という言葉が必要になります。空間周波数はフーリエ解析という数学の解析手法を使って定義されますが、数式を使わずに荒っぽく言えば、図柄の変化の細かさや激しさを表す量です。

 図柄が細かく急激に変化していればその空間周波数は高く、一方、図柄の変化がなだらかで大まかならば低くなっています。大抵の自然な画像には、空間周波数の高い成分、低い成分、そして高くも低くもない成分が混在しています。

 視覚科学の研究によれば、人の視覚はあまり高くも低くもない範囲の空間周波数(本稿ではこれを中周波数帯域と呼びます)に対して、感度がよくなる(=認識しやすい)ことが分かっています(Campbell & Robson, 1968)。

 オリバ氏らは、人の視覚特性を利用してハイブリッド画像を作りました。ハイブリッド画像は、1つの画像が空間周波数の高い図柄と低い図柄から成り立っています。そのため、画像を遠くから見ると、高周波の図柄は相対的により細かくなり、人間の視覚感度が高い中周波数帯域から外れて見えにくくなります。

 一方、画像を近くから見ると、高周波の部分が人間の視覚感度の高い中周波数帯域に入ってきて、高周波の図柄が良く見えるようになります。逆に低周波の部分は中周波数帯域から外れてしまい、見にくくなります。

 例えば、下の図の(A1)と(B1)のハイブリッド画像は次のように作ることができます。

photo 図3 街と薔薇のハイブリッド画像(新井仁之、新井しのぶ、2018)

 まず (A1) の低周波成分を、デジタル画像から低周波の成分を抽出する低域通過フィルターを用いて抜き出します。その結果、ぼやけた画像 (A2) ができます。次に(B1)の高周波成分を、デジタル画像から高周波の成分を抽出する高域通過フィルターで抜き出します。すると(B2)のような、エッジからなる画像ができます。後は(A2)と(B2)を足しあわせれば、ハイブリッド画像(C)の出来上がりです。遠くから見るとヨーロッパの街、近くから見ると薔薇が現れます

 ここではハイブリッド画像の基本的な作り方を述べるために少し単純化して説明しましたが、低域通過フィルターと高域通過フィルターの選び方をはじめ、例えば画像を選んで2つの画像の輪郭が似ているものにする、あるいは高周波画像のエッジが低周波画像の太い縁に隠れるようにするなど、細かい工夫をすると、より効果の高いハイブリッド画像が作れます。詳しく知りたい方は参考文献[1][2]をご参照ください。

新型スーパーハイブリッド画像

 ここまでにハイブリッド画像とスーパーハイブリッド画像について説明しましたが、さらにスーパーハイブリッド画像の新型を考案しました。次をご覧ください。

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