F: これは作中では明確にされなかったのですが、アミ↑が首謀者のピーカブーにコンタクトするとき、以下のようなメッセージを送っています。
How about a chicken game? Message me. Click here.
恐らくこれは「標的型メール」攻撃ですね。ピーカブーは油断して、Click Hereのリンクをクリックしている。するとアミ↑は、ピーカブーのPCをマルウェアに感染させて、事前にアジトのネットワークに侵入し、直接対決するときの仕込みを行っている。
私たち、内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)が注意喚起していることに従えば「目の前で読むだけで完結しないメールは全て疑え」なのに、ピーカブーはうかつにリンクを踏んでまんまとやられたのでしょう。「攻めることはできても守るのは素人」という人物像もリアルでした。
これほどでなくても人間はほぼ確実に油断をする生き物。なかなかリアルの姿を隠し通せるものではありません。この記事を読んでいる皆さんは、間違ってもダークウェブに隠れて何かできると思わないように。
K: しかしそう言われると、ストーリー上のほとんどの事象に元ネタがあるわけですか?
F: そう言ってしまうとそうです。ある意味、映画の脚本を作るときに、演じる俳優を決めてその人が演じやすいように書く「当て書き」に似ているともいえます。人物自身をネタと考えれば「ネタ優先」ということもいえるやり方です。
しかしこの脚本がすごいのは、きちんと全部のサイバーセキュリティネタをアレンジして生かした上で、ストーリー上にパズルピースとして有機的に組み込み、それらをまるで最初からそこにあった石垣のようにガッチリと組み上げて構成しているところです。昨今の「始めにサイバーネタありき」でネタに踊らされているストーリーの小説や漫画とは話が違う。どのピースを抜いても成立しない。
これは脚本家が必ずしも全ての分野に対して専門家にはなり得ないという中で、しかし匠の技を持ってその道のプロがうなるストーリーを作りあげる、「いい仕事」だと感服いたしました。正しくサイバーセキュリティについて知ってもらうという目的も果たしていて、脚本家の方に敬意を表します。
K: ここまで褒めるFさん、初めて見た……。
F: そして明確に、ルパンらしく、セキュリティの専門家を出し抜いたところがありました。ITmediaの記事でもこんな話、取り上げたことないはずですよ。
K: んんん?
F: マルコポーロから仮想通貨を盗んだルパンを追い詰めるべく、ピーカブーたちが、SNSで世界中の人たちにルパンを追い掛けさせる「ルパンゲーム」を始める。それに対するルパンの切り返しです。ルパンゲームを一種の「炎上案件」、いやネットスラングでいえば「祭だワショーイ」と考えれば分かります。
普通なら逃げるか隠れるところを、この世紀の大泥棒は、素早く「祭」の本質を見抜いてその逆を行った。自らルパンゲームに参加したわけです。これはリアルでは決してできないけれども、対処方法としては確かにその通り、「やられた!」と思いました。皆がルパンを探すことを面白がっているところに、実名でSNSジャンキーのように、本人がガンガンとネタを投稿したわけです。
K: 燃料投下ではなく、別の意味で絨毯爆撃でしたね。
F: この場合は正確には「炎上」ではなく、皆が興味本位で逃げるルパンを追い掛ける「祭」なので、その興味を削ぐというところを的確に攻撃しました。かつてネット企業が提供していた、掲示板などのサービスに契約企業のネガティブな投稿があったら、無意味な投稿などで「押し流す」というサービスがありましたが、これとも違う。
パッと頭に浮かんだのは、米国のシンクタンク、ランド研究所が出しているレポートにもあるフェイクニュースの対策です。その有効な方法に、フェイクニュースよりも先に正確な情報を出すこと、というのがあるのです。
K: それはなぜ?
F: 人間は、フェイクであろうが本当であろうが、ある事柄に対して先に入ってきた情報を信じやすい、という心理学的な傾向がある。したがってフェイクニュースに対抗するには、本当の情報を先に出し、後からフェイクニュースが出てきても受け入れられにくくするべし、とあるのです。
ルパンゲームのポイントは、ルパンを探し出す宝探し的な面白さとそれにまつわる推測、悪く言えば「状況を勘繰ること」です。ところが、ターゲット本人が逐一何をしているかSNSに写真付きで投稿し、さらにその内容は大泥棒らしからぬリゾート地でのくだらない内容、宝探しも推測の余地もなく、人々はだんだんしらけて飽きてしまうわけです。ルパン的にいえば「皆の興味を、ハックした」ということになるのでしょう。相変わらず隙のない仕事です。
K: おおお、確かにハッキングですね!
F: ちなみに世の中にもう1人、これをやって成功している人がいます。誰だと思います?
K: んん? 芸能人ですか?
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