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ブロックチェーンは「国境」を打ち破る IBMが乗り出す「信頼の基盤作り」とは(2/2 ページ)

» 2018年10月01日 07時00分 公開
[星暁雄ITmedia]
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「食の信頼」を守る「Food Trust」

 物流に関連するIBMのもう一つの業界プラットフォームが、食品トレーサビリティのプラットフォーム「IBM Food Trust」である。

IBM Food Trust 「食のトレーサビリティ」を実現する

 Food Trustは、世界最大のスーパーマーケットチェーンである米WalmartとIBMの取り組みから始まっている。まず中国で、Walmart、IBMと精華大学が協力し豚肉のトレーサビリティをコンソーシアム型ブロックチェーンに記録して共有する実証実験を行った。その後、北米でマンゴーのトレーサビリティ実証実験を行うなど、商用化の準備段階にある。

 このような食品流通の情報共有は、食品に問題があり回収する場合に威力を発揮する。取材で見たデモンストレーションでは、ある商品の1ロットを追跡すると、5つの農場や、倉庫と加工工場、3社のディストリビュータ、15の店舗に分散していることが分かった。このような複雑な流通過程を素早く追跡できるか否かで、回収に要する時間、コストは大きく変わってくる。

 高田事業部長はFood Trustの効果について、次のように数字を挙げて説明する。「スライスされたマンゴーのパッケージを、小売店舗から農場まで追跡するのに、紙の書類が混在していると6日18時間26分かかっていた。それがブロックチェーン・ベースのソリューションを導入することで2.2秒に短縮できた」

現実世界との「ひも付け」は最後に残る課題

 ところで、国際貿易にしても商品流通にしても、一つの課題がある。それは、デジタル情報として管理する台帳と、現実世界をどのようにひも付けるかだ。

 コンソーシアム型ブロックチェーン技術は、複数の利害関係者が共有するデジタルな台帳の中身を、より信頼できる形で管理するための技術である。ただし、デジタルの世界と現実世界とのひも付けは技術のスコープ外だ。

 貿易流通の場合は、このひも付けのために貨物に取り付けたRFID(無線タグ)を使う。食品流通の場合は、現在はバーコードが主流だ。ここで誰かが情報を台帳に記録し、バーコードを印刷して商品に貼る工程が入る。この際、情報を偽造される可能性はないのだろうか。

 コンソーシアム型ブロックチェーン技術は「誰が、いつ、なにを記録したのか」の偽造、改ざんはできない。事実と異なる情報が発見された場合、誰がその情報を入力したのかも同時に分かってしまう。それはウソの情報を入力することへの抑止力になる。信頼できる台帳が存在すること、つまり信頼のプラットフォームが存在することは、業務の現場の規律にも結び付くはずだ。

 そして、流通過程の各イベントで情報に追加変更があった場合、それは追跡できる形で台帳に記録されていく。例えばコンテナの積み替えや、食品の材料が加工されて複数の出荷先に運ばれる様子も追跡可能となる。多くの場合はRFIDやバーコードを活用するので、紙の書類で管理するのに比べると情報の転記ミス、抜け漏れを大幅に減らせることが期待できる。

 ただし、運送の途中段階で偽造品にすり替えるような物理的な不正はコンソーシアム型ブロックチェーン技術だけでは解決できない。別の種類の取り組みが必要だ。「将来を見据えて、微細なコンピュータを印刷技術で作り込むテクノロジーとブロックチェーン技術を組み合わせて不正を防止する技術にも取り組んでいる」(高田事業部長)と説明する。

将来的には食用インクで微細なコンピュータを作り、ブロックチェーンと組み合わせる

 IBMが世界規模で取り組んでいるコンソーシアム型ブロックチェーン技術は、国際貿易や食品流通のように従来はシステム化が難しかった領域に、デジタルな情報共有を持ち込もうとしている。企業の境界、国の境界を越えた情報共有の取り組みは、世界規模でビジネスのスピードを変えていくかもしれない。

 そして、コンソーシアム型ブロックチェーンという信頼のプラットフォームがうまく機能することで、「信頼」のために費やされていた社会的コストが軽減されていく可能性にも期待したい。

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