水戸黄門こと徳川光圀は普段、ちりめん問屋「越後屋」のご隠居・光右衛門として旅を続けていくが、役人の不正を正す時に正体を現す。その際に身分を証明するのが、黄門一行のメンバー、助さんこと佐々木助三郎と格さんこと渥美格之進たちがかざす「印籠」だ。
実際、ニセ黄門一行というのはドラマの中で何度も登場している。その際に印籠を見せられるかどうかというのが重要となるのだ。
そもそも印籠とは、中に薬などを入れて携帯するためのケースである。ただ、そこに「雲水に三つ葉葵」の徳川家の紋所が入っていることが重要である。この徳川家の紋所は、この架空世界では皆が知っているもので、かつ徳川家しか使用できないものだという共通認識があるから「所有物認証」として機能する。
また、もし徳川家の紋所の入っている印籠を偽造し、身分を詐称するなどすれば死罪は免れない。もちろん奪ったりしても同様。社会システム的に守られた、なかなか隙がない認証情報といえる。
今回は「所有物認証」を使った架空世界を紹介した。
「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」も「水戸黄門」も、それぞれの架空世界においてはカギとなるモノを奪われる懸念がないという設定なのだが、現実世界ではSuicaやスマートフォンを落としたり奪われたりすることは十分に考えられる。認証できなくなるだけでなく、他人にかたられてしまうかもしれないのだ。そうした点には注意したい。
では、誰にも奪われることがない「所有物認証」はないのか?
実は架空世界にもそれに近いものが存在する。「遠山の金さん」こと、江戸町奉行・遠山金四郎景元の「桜吹雪の刺青」だ。
遊び人の金さんが実は遠山金四郎だった……というシチュエーションで登場するこの刺青、劇中では「悪事の現場にいた」という認証として、うまく働いているのではないだろうか。
「所有物認証」というよりも、自分の体に直接、消すことのできない印を描くことで後付けの「生体認証」のようにも働くこの刺青、なかなかうまいアイデアだ。
そろそろ今回の講義は終わりとしよう。次回は、講義の最後で出てきた「生体認証」の登場する架空世界について講義できればと思う。
それでは本日はここまで!
朽木 海 (ライター、編集者、γ-Reverse代表)
ゲーム会社や出版社などの「IPが欲しい会社」と、ライトノベル作家や脚本家、漫画家などの「IPを作りたいフリーランス」を繋げるためのプロジェクト「γ-Reverse」の代表。引き続きライター業や編集者業も行っています。
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