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「4600台の工作機械が常時データを吐き出す」 “自前”は限界、クラウド移行に踏み切った工作機械メーカー

» 2019年01月22日 16時39分 公開
[片渕陽平ITmedia]

 「2400社の顧客企業が抱える4600台の工作機械が常時つながり、データを吐き出している」――そう話すのは、世界最大規模の工作機械メーカー、DMG森精機(名古屋市)の川島昭彦氏(常務執行役員)だ。同社は工作機械そのものに加え、稼働状況をリアルタイムで監視できるサービス「DMG MORI Messenger」を提供している。

photo DMG森精機は、工作機械にセンサーを組み込み、収集したデータをクラウド上で分析する計画だ=日本マイクロソフトが1月22日に開催したイベント「IoT in Action Tokyo」で撮影

 ただ、川島氏は「(顧客の工作機械のデータを)自社のデータセンターで管理してきたが、メンテナンスが非常に大変だった。世界中に顧客を抱え、止めることもできない中、(今後データがより集まるようになると)自分たちだけで投資を続けるのは大変な負担になると予想された」と悩んでいたという。

 そこで、今年の前半をめどにクラウドサービス「Microsoft Azure」にデータを移行することを決めた。川島氏は「自社のデータセンターにデータを蓄積し続け、この先10年間セキュリティパッチを当て続け、人件費がかかることも考えると、間違いなく効率がいい」とコスト面の優位を指摘する。

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 将来は、工作機械に組み込んだセンサーを使い、オイルクーラーの温度や機械の振動、傾きなどのデータを収集。Azureなどのクラウド上でAI(人工知能)を活用して分析するという取り組みも進める。川島氏は「何かインシデントが発生したとき(機械の状態などの)データとひも付けておくことで、次に起こるタイミングを予見できる。ダウンタイムを短くできるので、生産性向上につながる」と説明する。

photo 左から日本マイクロソフトの平野拓也社長、DMG森精機(名古屋市)の川島昭彦氏(常務執行役員)

4年間で50億円投資、IoT分野に注視する日本マイクロソフト

 2020年までに、スマートデバイスの普及台数は200億台に達し、スマートホームは1日に50GB、自動運転車は1日に5TB、スタジアムは1試合当たり200TB、スマートファクトリーなら1日に1PBのデータを通信する――日本マイクロソフトの平野拓也社長はそんな予測を挙げ、「いかにデータを有効活用するか」が重要だと強調する。日本マイクロソフトは昨年4月、22年までに50億ドルをIoT分野に投資するという計画を打ち出した。クラウド製品・サービスの開発費、研究体制の強化などに充てる。

 同社の菖蒲谷雄氏(業務執行役員 IoTデバイス本部長)は「当社はPaaS、SaaSなどさまざまなレイヤーでIoTサービスを提供している。例えばPaaSであればリモート監視、予測メンテナンスなど「工場の機械などで、よくあるシナリオを想定した“ひな型”を用意している」(菖蒲谷氏)としている。

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 例えば、フォークリフトなどの産業車両を製造している豊田自動織機(愛知県刈谷市)は日本マイクロソフトと連携し、世界各地のフォークリフトから稼働状況などのデータを収集。クラウド上で分析し、故障を予想してメンテナンスを行う――といった取り組みを行っている。

 菖蒲谷氏は「1社でIoTサービスを構築することは難しいのが現状」と指摘。「エッジデバイスからSI(システムインテグレーション)、業務上の知見の提供まで含め、さまざまなものを取り扱ってまとめて顧客企業に提供する『ソリューションアグリゲーター』というパートナー企業も出てきている」と話す。日本マイクロソフトは、そうしたパートナー企業にPaaSなどの“ひな型”を提供し、以降は業種ごとに知見を有しているパートナー企業が、実際に現場で使えるIoTサービスに仕上げる――という展開も見込んでいる。

 菖蒲谷氏は「フルスクラッチでも構わないが、(当社の製品を使えば)お客さまが価値を得られるまでの期間を短縮できる。自社のコアではない部分は、自作にこだわらなくてもいいのではないか」と話している。

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