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改元は凶事の「リセット装置」だった? 意外に知らない元号の話(後編)平成のうちに知りたい元号のこと(1/2 ページ)

» 2019年01月30日 07時00分 公開
[山崎潤一郎ITmedia]

 前編では「元号とは何か?」についてお話しましたが、後半では5月に控えた「改元」に関する豆知識を紹介していきます。

連載:平成のうちに知りたい元号のこと

「平成」もあと数カ月。第三次産業革命といわれるように、現代社会にはコンピュータやロボット、ネットワークなど、情報通信が広く普及しています。そんな社会が迎える初めての改元ということもあり、ITシステムやビジネスへの影響を懸念する声も上がっています。

この連載では、元号の生まれや改元の歴史、改元対応に追われる業界の声まで、平成のうちに知っておきたい元号と改元の話を幅広く紹介します。

 唐突ですが、筆者は和暦 vs. 西暦論争や改元についての議論を眺めていると、機動戦士ガンダムの「宇宙世紀(Universal Century)」、銀河英雄伝説の「宇宙暦(Space Era)」、スタートレックの「宇宙暦(Stardate)」といった、架空の物語に登場する「暦」に思いをはせます。この2つの物語において宇宙に進出した人間は、地球の使い慣れたグレゴリオ暦(西暦)を継承せず、新たな暦を定めています。なぜでしょうか。

 これらの暦は、それまでの地球世界の延長線上にはない、新たな社会・体制・秩序を演出するための舞台装置の1つとして大切な役割を果たしています。同時に、視聴者や読者に対し「リセット感」を提供しているように思えます。

 環境汚染や食糧難といった凶事を理由に地球を離れた人類を描くガンダム、あるいは、辺境の荒廃した惑星に成り下がった地球が登場する銀河英雄伝説、共に凶事をリセットし、新たな世界を構築する人類のたくましさを表現しているかのようです。同様に、日本の元号における改元の歴史をひも解くと、まず感じるのがこのリセット感なのです。

凶事の「リセット装置」としての改元

 今年5月の改元は、新天皇の即位による「代始改元」です。元号の根拠法である「元号法」でも、現在は皇位の継承があった場合に限り、元号を改めることが規定されています。

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 ですが、「明治」に天皇1代と1つの元号をリンクさせる一世一元が制定される前までは、譲位以外の理由で頻繁に改元が行われていました。中でも多かったのは、疫病、兵乱、天変地異といった災異を理由にしたもの。珍しいものでは「ハレー彗星が出現して不吉だから改元した」というケースもあります。

 なぜ悪いことが起きると改元されるのか。昔、時の治世者は元号を改めることで、凶事を断ち切り、悪いことが続くのを防げると考えていたからです。平安期以後、陰陽思想や御霊信仰の流行もあり、政治における意思決定プロセスにも迷信や俗信の類いが色濃く影を落としていました。また、改元には「リセット感」を広く流布し、「新たな気持ちで頑張ろう」と民衆を鼓舞する側面もあったのではないでしょうか。

 凶事による改元は半ば慣習化していき、平安時代の378年間――「大同」(西暦806年)から「元暦」(1184年)まで87回の改元が行われ、元号が大量生産される結果となりました。ここまでくると元号のインフレ状態、改元の緊張感や有り難みが相対的に薄れてしまいそうです。

photo 他の時代と比べても平安時代の改元回数は多い
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