前述の通り、RPAはこれまで人間が行ってきた作業(アプリケーションやシステムを通じて行うもの)を、そのまま自動化するというツールである。「Aという画面を開いて『ダウンロード』ボタンを押し、デスクトップ上にBというファイル名で保存、そしてCというExcelファイルを開いて、そこに載っているアドレスに対して、ファイルBをメールで送信する」などのような手順を設定すると、設定された通りにロボットが動くわけだ。
RPA製品によっては、実行のタイミングをスケジュール化したり、複数のロボットを協調させて実行したりといった制御も可能なものがある。例えばこのダウンロード作業を、毎日午前7時に完了するようにと設定しておけば、人間のスタッフを早朝出勤させる必要がなくなる。働き方改革で注目される理由の1つだ。
しかし決められた通り動くが故に、RPAは想定外の事態に非常に弱い。Aという画面を開いたとき、そこに『ダウンロード』ボタンではなく、『ファイルを保存』ボタンが表示されていたらどうだろうか。早朝対応を命じられたのが人間のスタッフであれば、上司の出社前でも、「システムがアップデートされてボタン名が変わったんだな」と判断して『ファイルを保存』ボタンを押してくれるだろう。だがRPAはそうはいかない。ボタンの場所が変わっただけで、作業をストップしてしまう場合もある。
もちろんこうしたイレギュラーな事態が発生した場合の対応を、あらかじめ設定しておくこともできる。またRPA製品によっては、多少の変化であれば対応できるものも多い(ボタンの表示名や表示位置で判断するのではなく、システム上の要素名で操作すべき対象を認識するなど)。しかしあらゆる変化に対応できるわけではない。RPAは、開発時より運用時の監視・メンテナンスの方にコストがかかる場合があることに注意すべきだろう。
ではちゃんと通常の手順を設定し、エラーが起きた場合の対応手順も設定しておけば良いのだろう――確かにその通りだ。ところがこの設定作業も、一筋縄ではいかない。多くのプロジェクトで、「RPAの設定にこんなに時間がかかるとは思わなかった」という声が上がっている。一体なぜだろうか。
私たち人間は、何気ない日常生活の中で、いかに高度な判断を行っているのかを忘れてしまいがちだ。一見RPA化できそうな作業でも、ふたを開けてみたらロボットには全く不可能だったというケースも珍しくない。
例を挙げよう。あなたはカスタマーセンターの支援業務を行っている。今日任されたのは、自社製品のユーザーからハガキで送られてくる「お客さまの声」を読んで、内容をシステムに登録するという作業だ。
「お客さまの声」には、ユーザーが自由に文章を書ける欄がある。システムに登録する際、あなたはこの文章に目を通し、それをテキスト化して入力するだけでなく、内容に応じて「好意的/中立/否定的/クレーム(要対応)」の4種類に分類しなければならない。
あなたが人間なら、これはさほど難しい作業ではない。しかしRPAに任せる場合、「文章にどのような要素があったら好意的と判断できるか、逆に緊急対応が必要なクレームと判断しなければならないか」を詳細に決めてやる必要がある。
確かにこうした分析は、近年のAI(人工知能)の高度化により、急速に機械的な判断が可能になっている領域だ。しかしRPAはAIではない。近い将来両者は融合するという予測もあるが、残念ながら19年現在、こうしたAIクラスの判断が標準機能で可能なRPAは存在しない。
この例は分かりやすいので、そんなの当たり前と思われる方も多いだろう。しかし前述の通り、人間はこうした作業を無意識にこなしているため、いざRPAに置き換えようとすると意外な落とし穴に驚くことがあるのだ。
その結果、予想以上にRPA導入コストがかかったり、最悪の場合には、RPA導入前よりトータルでの作業量が増える場合すらある。
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