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人工知能は新型コロナの流行を知っていた パンデミック対策の最新事例よくわかる人工知能の基礎知識(4/4 ページ)

» 2020年04月15日 07時00分 公開
[小林啓倫ITmedia]
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ロボットで人間の仕事を置き換える

 最後に、デジタルの世界だけでなく物理的に人間を置き換える、つまりロボットを活用する取り組みを紹介しておこう。

 この分野でも、さまざまな取り組みが先行して生まれているのが中国だ。Baiduは中国の自動運転スタートアップであるNeolixと提携し、北京にある病院に対して各種物資や食料を配送する仕組みを構築した。また自社の自動運転プラットフォームである「Apollo」を、クラウドを通じて外部の企業が利用できるようにし、コロナウイルス対策として自動運転技術を広く活用できるようにしている。

 また以前から各種の先端技術を医療に取り入れていることで知られる米Mayo Clinicは、フロリダ州ジャクソンビルの交通局(JTA)、自動運転ソリューションを開発しているBeep、ならびに自動運転バスを開発しているNAVYAと提携し、同様の自動配送の仕組みを整備した。こちらで目指しているのは、COVID-19の診断に必要な検体や検査キットの輸送だ。

 同様の自動配送の仕組みは、ドローンを使ったものも登場している。ドローンによる自動配送は以前から研究開発が進められており、法規制やインフラ(ドローン用航空管制など)の面でハードルが残されていたが、COVID-19の流行によって取り組みを加速させる機運が高まっている。

 一方でこうした配送のニーズは、屋外だけで起きるものではない。病院などの施設内でもさまざまな物資が運ばれており、そこに人間が関与すれば、当然ながら感染のリスクが高まる。そこで屋内において、物資の配送を担うロボットが登場している。

 中国広東省の広州市にある病院では、2台のロボットが医薬品を配送するために配備されている。医療スタッフが物資を筐体に入れ、行く先を指定すると、あとは自動で配送する。ロボットはドアの開閉やエレベーターの乗り降りを自律的に行え、1台で3人の配達員に匹敵する作業を実施できるという。

 よりテクノロジーが進化していけば、こうしたロボットたちは配送以上の仕事を請け負うことになるだろう。南オーストラリア大学でセンサーシステムを研究しているジャヴァーン・シン・チャール教授は、空港のターミナル内で咳やくしゃみをしている人を見つけたり、通行人の脈拍や体温を遠隔で測定できたりするようなアルゴリズムの研究を進めており、そうしたアルゴリズムをドローンに搭載することを検討している。それにさまざまな場所をパトロールさせることで、特定の疾病の感染者や、流行の発生をいち早く把握できるというわけだ。

 実は中国で既に、同様の発想のロボットが広州市の広場に導入されていることが報じられている。中国の高新興科技集団(Gosuncn Technology Group)が開発したこのロボットは、5G回線を使ってコントロールされ、自動運転もしくは遠隔操作が可能。また赤外線センサーによる体温測定機能に加えて、画像解析技術による「マスク着用チェック」機能まで搭載されている。そして歩行者の体温が設定値を上回っていたり、マスクを着用していないことが確認されたりした場合、このロボットは直ちにそのデータを関係当局に送信するようになっているそうだ。

 人間の体温を察知して追跡するロボット――というとSF作品に出てきそうな設定だが、「マスクをしているかどうか」を追跡するロボットが登場する日が来るとは、どんなに想像力豊かな小説家でも思いつかなかっただろう。それだけ現実のほうが、私たちの想像以上のスピードで進んでいるということなのだろう。

 今回紹介した事例からも明らかなように、COVID-19の流行は、既にさまざまな形でAIの活用を促し、社会の仕組みも変えようとしている。テレワーク導入の促進も、新型コロナウイルスがもたらした変革の一つといえる。そうした変化の何を残し、何を元に戻すか、あるいは形を変えて継続させるか、きちんと精査しなければならない。一刻も早くパンデミックが収束し、本当の意味で社会の進化が進むことを祈っている。

著者プロフィール:小林啓倫(こばやし あきひと)

経営コンサルタント。1973年東京都生まれ、獨協大学外国語学部卒、筑波大学大学院地域研究研究科修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米Babson CollegeにてMBAを取得。その後外資系コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業などで活動。著書に『FinTechが変える! 金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』(朝日新聞出版)、『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『テトリス・エフェクト 世界を惑わせたゲーム』(ダン・アッカーマン著、白揚社)、『シンギュラリティ大学が教える 飛躍する方法』(サリム・イスマイル著、日経BP社)など多数。


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