「立体造形するのなら、自分で設計だけしてプリントサービスに出せばいいじゃない」という意見をよく聞く。確かに正論だ。それでも、実際に手元に3Dプリンタを置いてやってみてこそ分かることはたくさんある。
かつてはパーソナルコンピュータがそうだった。学校や会社に行って順番待ちしなければ使えなかったものが、自分の手の届くところにあって、いくらでも試行錯誤できる。非力とはいえ、自分自身のコードを試せる。
多少の失敗があってもその積み重ね、トライ&エラーが自分の糧となり、その知識を共有することで新たな交流が生まれる。そんな言い訳をしつつ、今回は3Dプリンタでやってしまった失敗をいくつか紹介しようと思う。
前回は、FDM(熱溶解積層)方式の新マシン「Creality Ender-3 V2」を導入してからの話だったが、その前に買ったSLA(光造形)方式の「ELEGOO MARS」も並行してずっと使っていて、プリントしたものがけっこう増えてきた。2台あると2つを同時に動かして印刷できるのだ(当然のことだが)。
印刷した妻フィギュアの全身像を持って「南くんの恋人」ごっこもしてみた。よく一緒に散歩していた石神井公園を歩いて。
そのあとはコンビニへ。そこでフィギュアを手に持ったままというのも不審者扱いされそうなので、いったんポケットに入れておいた。そしてしゃがむ。
違和感とともに、脚が折れてしまった。ごめん。光造形で使われるレジンは靭(じん)性が弱く、折れやすい。連れ歩くのには不向きだった。
さらに、そこから液状のレジンがにじみ出ている。これは困った。
なぜこうなったかというと、モデルを作るときに、全部中身が詰まった状態ではなく、中空にしたからだ。中空にすることでビルドプラットフォーム(造形物がくっつくところ)への負担を減らし、さらにはレジンの使用量も節約できる。
だが、中空にしたままレジンの海につけたり持ち上げたりしているうちに、中に液体レジンが入ったまま完成されてしまっていたのだ。一つ知見を得た。南くんの恋人ごっこをするなら、FDMプリンタで作ろう。
そういえば、遺影の横に置いていた別の胸像モデルも、下の方からレジンが漏れていて、慌てて拭き取った。これも同じ理由のようだ。ひび割れてしまったさらに別の胸像からも同じようにレジンが出てきている。穴を開けてレジンを出そうとしたら、さらに裂け目が広がってしまうという悲劇も起きてしまった。
こういう事故を防止するためにはどうしたら良いか。最初から穴を開けておくのである。
スライサーのCHITUBOXには、「穴を開ける」コマンドが用意されていて、「何に使うのかなあ」と思っていたのだが、そう、こういうときのために使うのだ。
折れた脚を治療するために瞬間接着剤を処方してもらい、治療しながら「次は失敗しない」と誓うのだった。
それでも、光造形の出力後の処理はとても楽になった。
そう。後処理が楽な「水洗いレジン」に変えたのである。手袋で取り扱うのは変わらないが、取り出した成形物をそのまま水道水で洗浄し、2次硬化させることができる。IPA(イソプロピルアルコール)で2回洗って、それぞれを容器に戻すという作業をしなくて済むので、FDMとそんなに変わらないのではないだろうかと思うくらいだ。
水洗いレジンは紫外線の照射時間を長めにとる必要があるので出力時間が2〜3割増えることになるが、同じ容積のものであればFDMよりも有利で、高さがあるものでも10時間くらいには収まる。
今度の水洗いレジンは、最初から使っていたグレーとは違って柔らかいカラーの「肌色」。人肌を表現するにはやはりこっちの方がいい。しばらくはこれで行こうと思う。妻フィギュア以外を作ることはたぶんないので。
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