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麺と具が一緒なのに長期保存できて、麺がのびないパスタ「麺Quick」の異常さ分かりにくいけれど面白いモノたち(3/5 ページ)

» 2022年03月30日 12時30分 公開
[納富廉邦ITmedia]

麺に加工をしない製法を開発

 テーブルストックの保存食が面白いのは、何といっても、麺がのびないという点だ。現在、製品ラインアップは「ナポリタン」「ボロネーゼ」「カレーうどん」「ほうとう」の4種類だが、どれもが数年保存した後でもそれぞれの麺の特徴を保ったまま、しっかりとソースに絡んで美味しい料理に仕上がる。しかも、一度温めて24時間放置していても麺がのびないのだ。

 「加工して長期保存できる麺というのは、実は世の中に結構いろいろあって、それは例えば、コンニャクとかマンナンなどを練り込んで作るんです。でも、既にあるものを作っても面白くないので、何かできないかと思ったときに、麺ではなくスープを加工するとよいのではないかと思いついたんです」と中村氏。

 そうして、試行錯誤の末にたどり着いたのが、スープにでんぷん素材を入れるという方法。こうすると、麺をスープの中のでんぷんがコーティングして、水分が麺の中に入ることを防ぐことが分かった。

 この方法だと麺は何を使っても構わなかった。早速、特許を取る準備をしたところ、従来にはない技術だったことも分かり、約2年を費やして特許の出願に成功する。

photo 電子レンジ対応の「麺Quick 国産豚100%のボロネーゼパスタ」と「おいしさにこだわった保存食 ボロネーゼ」のパッケージを並べてみた。同じ技術で作られた製品だが、コンセプトの方向が違うため、パッケージや分量に、これだけの違いが出るのが面白い。

 ただ、簡単に製品化できたかというと、そうではない。まずパスタやうどんを作ることにして味を決めていくのだが、これが意外にも難しかったという。製作自体は難しくはない。でんぷん素材を入れたスープと麺を別々に作ったら、それをレトルトのパックに投入する。後で真空にして加熱殺菌を行うのは通常のレトルト食品と変わらない。麺のコーティングは、加熱時にパックの中で行われる。いわゆる加熱調理だ。

 「ただ、でんぷん素材の分量とスープの量、麺の種類と量のバランスがとても難しいんです。麺全体にコーティングできなければならないし、しかも、このバランスが悪いと味に強い違和感が出るんです」と中村氏。

 実際、麺の種類、量、ソースの種類が変われば、ゼロからレシピを作る必要があるという。その意味では、最初に4種類の製品を出し、1年後には電子レンジ対応品として新たに2種類を追加する(さらに増える予定もある)というからよくできたものだと思う。

photo テーブルストックの親会社である信玄食品では、アワビの貝柱を柔らかく加工するためにレトルト釜の設備を持っていた。そこでの加熱処理がボツリヌス菌さえも殺して無菌状態を作ることができることから、レトルトによる保存食の製造に取り組んだ。写真は社内のレトルト食品製造過程

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