排気ガスで400W発電できる、まずはバイクの補助電源から蓄電・発電機器(1/2 ページ)

都市ガスで発電し、お湯も得られるエネファーム。この考え方を最大限に拡張すると、排気ガスから発電するオートバイや自動車用の発電機になる。排気ガス中にわずかに残っている燃料を取り込み、燃料電池で発電する。さらに排気ガスと燃料電池の熱自体から電力を得るという発想だ。

» 2013年05月09日 11時00分 公開
[畑陽一郎,スマートジャパン]

 自動車やオートバイでは燃費向上が強く求められている。ガソリン車ではエンジンの改良や車体の軽量化などが燃費向上技術の主流だ。

 静岡県の自動車部品メーカーであるアツミテックの手法は異なる。エンジンの排ガスから電気エネルギーを取り出し、補助電源として利用するというものだ。自動車やオートバイではエンジンに専用の発電機(オルタネーター)を接続し、鉛蓄電池に充電、ライトなど車内のさまざまな機器が利用している。つまり、ガソリンが発電のために「無駄」になっており、その分だけ燃費が落ちている。排ガス発電はこのオルタネーターの代わりに役立つ。

 同社が試作した排ガス発電機の出力は400W。通常のオートバイのオルタネーターの出力と同程度だ。車両に取り付け可能なサイズに小型化もできた(図1)。

図1 オートバイに取り付けた排ガス発電システム。出典:科学技術振興機構(JST)

燃料電池と熱電変換を利用

 排ガスから電力が得られる仕組みは、二段構えだ。ガソリンがエンジンで燃焼して得られる排ガスには、二酸化炭素などの他に、実は燃料として利用可能な水素や炭化水素、一酸化炭素などの成分が1〜2%含まれている。これを燃料として発電する。さらに排ガスは600℃以上と高温だ。そこで、排ガスの熱自体を利用して電力を取り出す。

 排ガス中の微量の燃料から電力を取り出すためには燃料電池を用いた。高温で動作し、効率の高い固体酸化物形燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)を選んだ*1)

*1) SOFCは燃料電池のなかでも最も効率の高い方式として知られている。動作温度が700〜1000℃と高いため、高価な貴金属触媒は不要だ。発電効率(LHV)は原理上最大65%程度だと見積もられている。従来は発電所や船舶の補助動力として捉えられてきたが、2011年には家庭用の「エネファーム」にも採用された。

 ただし、燃料電池だけでは移動体向けの電源としては適さないのだという。例えば燃費向上のために自動車などのアイドリングストップ機能やフューエルカット機能が働くと、排ガス中の燃料は0になる。そこで、排ガス自体の熱と大気との温度差を利用した熱電変換素子による発電*2)も利用した。

*2) 熱電変換の基となる現象(ゼーベック効果)自体は19世紀から知られており、ガスなどの移動がなく、電力だけで物体の温度を下げるペルチェ効果と併せて実用化されている。

低コスト化と小型化を狙う

 発電に利用できるSOFC技術や熱電変換技術は以前から広く知られている。アツミテックの開発努力はどこに向けられていたのだろうか。

 2つある。「量産化したときに発電機当たり数千〜数万円という価格が実現できなければ、商品にはならない」(アツミテック)。そもそも同社が開発を開始したのは、産業技術総合研究所の研究成果の実用化を目的とした開発委託を科学技術振興機構(JST)から受けたからだ*3)。原理の実証や基礎研究ではなく、当初から低コストが前提となる製品化を狙っていた。2015年をめどに製品化を予定する。

*3) 産業技術総合研究所先進製造プロセス研究部門 機能集積モジュール化研究グループ研究グループ長の藤代芳伸氏の成果に基づき、JSTが独創的シーズ展開事業「委託開発」の開発課題「熱電シナジー排ガス発電システム」として委託したもの。委託期間は2006年3月〜2012年3月。2013年5月7日に今回の成果をJSTが公表した。

 もう1つは小型化・高密度化だ。「オートバイで400Wの出力が必要なことと、発電機の搭載に割くことが許される体積から逆算して、発電機の体積1cm3当たりの出力が1W以上得られないと実用化できないと考えた」(アツミテック)。

 安価に量産できること、小型化・高密度化の2つの条件をかなえる技術が、同社の開発した低コスト材料を使用したチューブ型のSOFC、さらにSOFCと構造・材料の一部を共有する熱電変換素子である(図2)。

図2 チューブ型SOFCと発電ユニット(右下)。出典:JST
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