予備率3%台の電力会社、BEMSを利用したピーク需要抑制へエネルギー管理

首相官邸が公開した2013年夏の電力需給状況は比較的明るい。全ての電力会社において、予備率3%以上を確保できる見通しだからだ。ただし、発電所の事故などをカバーする手段は必要だ。節電が1つ、もう1つはBEMSアグリゲータを介した需要調整だ。

» 2013年05月15日 11時00分 公開
[畑陽一郎,スマートジャパン]

 真夏日のニュースが聞こえてくると、今年は特に暑い夏になるのではないかと思えてくる。夏が近づくと、気になるのが電力事情だろう。問題があるのだろうか。

 首相官邸は、2013年4月末に「2013年度夏季の電力需給対策について」と題した文書を公開している。この文書によれば、全ての電力管内で電力の安定供給に最低限必要な「予備率3%以上」を確保できる見通しである。

 これは景気の見通しや気象条件について比較的厳しい仮定の下に計算した値だという。2010年度夏季並の猛暑となるリスクや、直近の経済成長の伸び、企業や家庭における節電の定着などを織り込んだとした。原子力発電所の再稼働は含まない数字だ。

 10電力管内の予備率は図1の通りだ。東北電力の予備率は5.5%、東京電力は6.7%、中部電力は9.0%と余力がある。だが、赤丸で示した本誌の強調部分にあるように、関西電力(3.0%)と九州電力(3.1%)の余力は少ない。

図1 2013年8月の電力需給見通し。出典:首相官邸

 文書では、大規模な電源脱落(大型の発電所が停止する事故など)が発生した場合、例え他の電力会社から融通を受けたとしても一部地域で電力需要が2%台までひっ迫すると指摘している。そこで電力需給対策が必要になる。

 第1は節電だ。7月1日から9月30日までの期間、節電の要請を行う。ただし、今年は数値目標を設けない。国民生活や経済活動への影響をなるべく少なくしたいからだ。

 第2がいざ需給がひっ迫したときの対策だ。なかでも需要側の数量を自動的に減らす取り組みが注目されている。事前に契約した需要家の電力需要を一括して制御するアグリゲータの他、需要家の節電量を供給量として見立てて、節電分を入札などによって確保するネガワット取引などだ。

関西電力と九州電力はアグリゲータを募集

 このような発表を受けて、関西電力と九州電力は相次いで、アグリゲータと協力したピーク電力需要の抑制に乗り出した。これは昨年に引き続いた動きだ。

 関西電力は法人顧客を対象とした「BEMSアグリゲーターとの協業によるピーク抑制」を実施すると5月10日に発表した。実施期間は節電期間と同じ7月1日から9月30日だ。BEMSとはビル向けエネルギー管理システムである。関西電力と高圧受電契約を結んだ顧客(契約電力1000kW未満*1))の間に、調整を行う企業であるBEMSアグリゲータをはさむ形で電力需要を調整する。このBEMSアグリゲータを5月24日までに募集する。

*1) 2012年の募集では対象が契約電力500kW未満となっていた。2013年はより対象範囲を広げたことになる。

 BEMSアグリゲータはまず関西電力と負荷調整に関する委託契約を結ぶ。次に需給ひっ迫時に負荷調整に協力可能な顧客をBEMSアグリゲータが募集する。調整対象となるのは主にビルの空調や照明だ。顧客との契約が終わったら、調整可能量を関西電力に報告する。ここまでの調査を7月1日までに完了する。

 実施期間に入ると、関西電力が翌日の需給ひっ迫を15時までに予想。その後、翌日の負荷調整時間帯*2)を公開する。BEMSアグリゲータはこの情報を基に、負荷調整を実施するという流れだ。ひっ迫した当日は顧客の負荷調整状況をBEMSアグリゲータがほぼリアルタイムで遠隔監視する。もしも調整量が不足した場合はその場で遠隔調整も実施する。調整時間帯が終わった後、実施結果を関西電力に戻す。

*2) 負荷調整時間帯として午前9時から午後8時までが対象となる可能性がある。実際に調整する場合は、午後1時〜午後4時を必ず含む。

 九州電力が5月13日に発表した「節電アグリゲーター事業者の募集について」の内容は関西電力とほぼ同じだ(図2)。ただし、契約電力は500kW未満であり、BEMSアグリゲータの募集期間は5月31日までである。

図2 BEMSアグリゲータの役割。出典:九州電力

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