太陽光の大先輩、「植物」の実力は?ウイークエンドQuiz(2/2 ページ)

» 2013年11月16日 01時00分 公開
[畑陽一郎,スマートジャパン]
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正解:

 a. 5%

ミニ解説

 Bacon Ke氏による著作「Photosynthesis:Photobiochemistry and Photobiophysics」(2001, Springer)は、光合成に関する専門書だ。冒頭部分では地球を照らす太陽光を植物がどのように利用しているのか、概略を解説している。

 同書によれば、地球に向かう全太陽エネルギーは1.2×1021kcal(1.4×1018kWhと等しい)。このうち、30%が反射され、残りが地球表面で吸収される。ここまでは以前掲載したウイークエンドQuizと同じ内容を扱っている(以前の記事)。

 地球表面の30%は陸地、70%が海水面であるため、地表には1.8×1020kcalのエネルギーが加わり、そのうち、4×1017kcalを植物が吸収する。海面では4.2×1020kcalと2×1017kcalだ。これはつまり、地表で吸収された光のうち、植物が吸収したものは454分の1であること、海中では同じく2100分の1であることを意味する。トータルでは約1000分の1だ。植物が利用している太陽光は意外に少ない。

 本題はここからだ。同書によれば地表と海中の植物が吸収した6×1017kcalに由来する光合成の産物は3.2×16kcalだという。効率を単純計算すると、約5%となる*1)

*1) 光合成の産物のうち、食物になる部分は12.5%、燃料や材料(木材)になる部分は25%、利用されていない部分は62.5%なのだという。

 以上の計算結果はエネルギー収支から求められたものであり、5%という数字もオーダーレベルの値だ。植物の種類ごとの調査によると、主要穀物が1〜2%、最も効率が高いトウモロコシで約8%という数値が得られている(図1)。なお、トウモロコシの効率が高いのは、C4型光合成と呼ばれる一部の植物だけが持つ光合成が働いているためだ。C4型光合成は高温、乾燥に強いという特徴もある。

図1 最も効率の高い光合成が可能な植物の1つ、トウモロコシ

なぜ効率が低下するのか

 植物の変換効率が低くなる最大の理由は太陽光に含まれる光の種類(スペクトル)と光合成で利用可能な光の種類にずれがあることだ。光合成が最も効率よく働く光の波長は0.68〜0.7μm、つまり赤い光。この波長の光を照射したときの理論効率は25%に達する。植物工場にLEDを使う場合、赤色LEDを多用するのはこのためだ。

 しかし、太陽光に含まれる光の比率を考慮すると、光合成に利用できる光は45%にすぎない。そのため、実際の太陽光下の理論効率は11%に下がる。トウモロコシの8%という値は理論効率に近く、非常に効率良く光合成を実現していることが分かる。

植物は太陽電池に劣るのか

 変換効率の値で、一見、太陽電池に劣る植物。機械に負けているということなのだろうか。そうではない。植物は太陽光だけで「製造」できる。たとえ人の手を加えなくても増えていく。究極の再生可能エネルギー利用だ。製造に要するエネルギーが低いことによって、全ての「食物」と化石燃料を作り上げる余地が生まれていると見るべきだ。

 エネルギー面でも明らかに植物が優れている点が2つある。光合成は2つの反応に分かれる。まずは、光を励起された電子に変え、受け渡していく明反応だ。水から酸素を分離して、大気中に放出しているのは明反応だ。明反応で得られた高エネルギー物質を使って光とは無関係に二酸化炭素からグルコース(ブドウ糖)を作り上げる暗反応が続く。

 明反応では、植物の葉に含まれ、緑色に見える高分子クロロフィルとその周辺分子に優れた性質がある。植物は吸収した光(光子)をほぼ100%、電子の流れ(電子伝達反応)に変えることができる。つまり量子効率が100%といえる。これは電子の流れだけを扱う太陽電池では実現が難しい。

 暗反応では、高エネルギー物質を使って、グルコースを作り上げている。この部分をカルビンベンソン回路と呼ぶ。暗反応はエネルギーのロスがいくぶん大きいものの、そもそも太陽電池や人工光合成ではいまだ実現できていない芸当をやり遂げている。

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