電力に代わるガスの台頭、いよいよ価格競争が始まる2014年の電力メガトレンド(5)

企業や家庭のエネルギー源として電力に押され気味だったガスが存在感を高めている。万一の災害時に電力が途絶える心配もあり、代替エネルギーとしてガスを使える発電設備や冷暖房設備が全国で広がってきた。ガス料金は長期的に低下する見通しで、電力会社との競争が激しくなる。

» 2014年01月10日 07時00分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

 国内で使われているガスには「都市ガス」と「LPガス」(一般には「プロパンガス」と呼ばれる)の2種類がある。需要が伸びているのは都市ガスで、過去40年以上にわたって販売量が増え続けている。ここ数年は横ばいの状態だったが、再び勢いを取り戻し始めた(図1)。特に東日本大震災が発生してからは、防災対策も兼ねてガスを導入する事例が増えている。

図1 都市ガス販売量の推移。出典:資源エネルギー庁

震災後にガスの消費量が増加、電力は大幅に減少

 企業や家庭などが最終的に消費するエネルギーの総量を見ると、都市ガスと電力に対する需要の変化がよくわかる(図2)。資源エネルギー庁がまとめた2012年度の国全体の最終エネルギー消費量のうち、震災前の2010年度から増加したのは都市ガスと再生可能エネルギー(廃棄物発電などの未活用エネルギーを含む)だけである(図2右下のグラフ)。一方で石油と電力は大幅に減少した。

図2 エネルギーの種別に見た最終消費量の推移(画像をクリックすると拡大、単位はペタジュール)。出典:資源エネルギー庁

 今後も企業や家庭が消費するエネルギーの総量は減り続ける。その中でガスが占める割合は大きくなっていくだろう。電力に代わるエネルギー源として役割が高まるためだ。政府もエネルギー政策の重点項目のひとつにガスの利用拡大を掲げていて、補助金などを通じて導入を促進している。

 電力と比べてガスが優位な点は2つある。第1にエネルギーの変換効率が高い。特に電力と熱の両方を作ることができるガスコージェネレーションが優れている。通常の火力発電のエネルギー効率(燃料の発熱量を利用できる割合)が40%であるのに対して、コージェネレーションでは電力と熱を合わせて75〜80%にもなる。それだけCO2の排出量が少なくて済み、光熱費も安くなる。

 第2に災害に強いことが東日本大震災で証明された。地下に埋設したガス管の耐震性能が大きな要因だ。通常の電力と併用すれば、エネルギー供給の安定度はさらに高くなる。実際に家庭用のガスコージェネレーションである「エネファーム」の販売台数は2011年度から急速に増えている(図3)。

図3 エネファームの販売台数。出典:コージェネレーション・エネルギー高度利用センター

ガス料金は電気料金よりも安いか高いか

 そこで気になるのがガス料金だ。企業や家庭では用途によって電力とガスを使い分けているケースが多いため、どちらの料金が割安なのか単純な比較は難しい。参考までに東京ガスの家庭向け標準モデル料金を見てみると、1カ月で5718円である(図4)。電力と熱の両方を供給できるエネファームだと1カ月あたり1万2784円になる。

図4 家庭向けの標準モデル料金(東京ガスの2013年12月10日改定時)。出典:東京ガス

 これに対して東京電力の家庭向け標準モデル料金は1カ月で7620円である。ガス料金を加えると、エネファームよりも550円ほど高くなる。電力と熱を多く使う家庭の場合には、おそらくエネファームのほうが割安になる。

 今後もガス料金が上昇していく可能性はほとんどない。電力市場と違って200社以上のガス事業者が地域ごとに競争状態にあり、平均販売価格は過去30年間に2分の1程度まで下がってきた(図5)。原料のLNG(液化天然ガス)の輸入価格が高騰しても吸収できる体制ができている。

図5 ガスの平均販売価格とLNG輸入価格の推移(画像をクリックすると拡大)。出典:資源エネルギー庁

 一方で電気料金も値上げ幅は限界に近づいている。現状からさらに料金を高くすれば、ますますガスへの移行が進んでしまう。いまや電力会社とガス会社は同じ市場で競争する状況になりつつある。現在のところ電気料金とガス料金を比較した営業活動は表立って見られないものの、これからは確実に激しくなっていく。

 電力会社も燃料費を含めてコストの削減を進めていけば、電気料金を値下げできる余地が生まれてくるはずだ。2014年は電力とガスの価格競争が始まる転換期になる。ガスが電力の代替エネルギーとして存在価値を高めるほど、市場のメカニズムが有効に機能して、利用者に恩恵がもたらされる。

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