地熱とは違う「地中熱」、弱点の高コストを改善する自然エネルギー(1/2 ページ)

地中熱は地熱とは違い、都市部でも郊外でも地域を選ばず利用できる。空調機器と組み合わせることで、年間消費電力を半減させる能力もある。課題は初期導入コストが大きいこと。大林組は施工コストを25%下げながら、効率を20%以上高める技術を開発した。

» 2014年02月07日 16時00分 公開
[畑陽一郎スマートジャパン]

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 地表から10〜15mよりも深い地中は、真冬であっても真夏であっても温度が年中変化しない。これをエネルギー資源の見方から「地中熱」と呼ぶ。

 地中熱を利用すれば、空調に必要なエネルギーを節約でき、空調の使い方を変えなくても節電になる(図1)。環境省によれば、東京都内のオフィスビルに採用した場合、空調機器の消費電力を年間49%削減した事例がある。冷房時に空調の室外機から排熱が全くないため、都心部のヒートアイランド現象解消にも役立つ。

 地中熱の利用には国内外で20年以上の歴史があり、例えば、東京スカイツリーも地中熱を利用している。地中熱は地域を選ばす、利用可能だ。比較的涼しい気候の地域で暖房用途として採用が進んでおり、国内では北海道の累積導入量が全国の3割を占める。

図1 地中熱を利用した空調の概念 出典:環境省

 利点の多い地中熱にも課題がある。最大の課題は「導入コストが高い」ことだ。地中熱を利用する場合、基礎杭を使わない小規模な建物に向くボアホール方式の採用事例が多い。ボアホール方式では直径20cm程度の坑を垂直に深さ100mまで掘る。1m当たり1万円から1万5000円のボーリング費用などを空調費用の効率改善で補おうとすると、回収期間が30年以上掛かってしまう。これでは導入しにくい。国内の導入件数が年間100件程度にとどまっている理由の1つだ。

施工性と熱効率の両方を改善

 このような地中熱の欠点を改善する研究が進んでいる。大林組は2014年1月、高効率かつ低コスト化に役立つ新型地中熱交換器を開発したと発表した。「既に製品開発が終わっており、研究所で効果を確認済みだ。現在は顧客展開に取り掛っている」(大林組)。

 同社の技術は、熱を取り出す採熱効率を20%以上高めることができ、施工コストを約25%低減できることが特徴だ。「採熱効率の向上を施工コスト低減側に振り向けることもできる。100mのボーリングではなく80mのボーリングでも同等の熱が得られるためだ」(大林組)。

 採熱効率を高める工夫は3つある。1番目の工夫は管の構成を変えたことだ。図2を見て欲しい。図左が従来のU字管方式、図右が新開発の分岐管型方式だ。

 地中熱を取り出すためには、通常、Uの字をした管をボーリング坑に通す。U字管の中に不凍液を通し、地中の熱を吸収する。例えば冷水を注入すると、地中熱を吸収し「温水」が得られる。図1左ではU字管を2本通している。

図2 地中熱の配管の模式図。従来方式(左)と新開発の方式(右) 出典:大林組

 従来方式の欠点は、地中熱を吸収した温水が、これから地中に入っていく冷水に熱を奪われてしまうことだ。効率が下がってしまう。そこで、新方式では冷水の管(送り管)を3本に増やし、最下部で3本を1本の管(還り管)にまとめて地上に戻すように変えた。水は圧縮をほとんど受けないため、温水の流れる速さは冷水の3倍になる。すると、行きはゆっくりと地中熱を吸収し、帰りは素早く地上に戻るようになる。吸収した熱を冷水に奪われにくくなる。

図3 専用ストッパー(左)と従来方式の欠点(右) 出典:大林組

 2番目の工夫は、配管同士を接触しにくく、かつ地中熱を吸収しやすくする小器具を採用したことだ。図3左にある専用ストッパーで管を止めた後、配管全体をボーリング坑に入れていく。ストッパーは上下1〜2m間隔で配置する。こうすると、管同士が密着することがなくなり、温水から冷水への熱の移動がさらに少なくなる。ボーリング坑の壁面に近い位置に管が固定されるため、冷水は地中熱を受け取りやすくなる。管のねじれが少なくなり、施工が安定するというメリットもある。

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