料金値上げの不安なし、慶應大学とソフトバンクが燃料電池を採用電力供給サービス(1/2 ページ)

都市ガスを使って200kWの電力を生み出す定置型の装置「Bloomエナジーサーバー」を慶應大学とソフトバンク本社が相次いで採用した。値上げのない安価な電力を10年以上利用可能なことに加えて、電力源を系統電力とガスで二重化でき、事業継続性が高まる。

» 2014年06月19日 07時00分 公開
[畑陽一郎スマートジャパン]

 慶應義塾大学とソフトバンクはそれぞれ、2014年6月17日、建物に大量の電力を供給可能な発電システム「Bloomエナジーサーバー」を導入、同日から営業運転を開始したと発表した。

 同サーバーは米Bloom Energyが開発した定置型の装置。都市ガスなどを取り入れ、内部の燃料電池システムを使って電力を生み出す(関連記事)。二酸化炭素排出量も少ない。

 国内で同サーバーを用いた発電事業を行うBloom Energy Japanのビジネスモデルはこうだ。サーバーの導入コストやガス料金などの運用コストは、全てBloom Energy Japanが負担する。顧客は同社との長期契約に基づいて、電力使用量に応じた一定の電気料金のみを支払う形だ。「契約期間は基本的には5年以上、今回の事例では契約期間を公開していないものの、10〜20年にわたる」(Bloom Energy Japan)。

導入メリットは大きく2つ

 同サーバーを導入する顧客のメリットは、2つある。1つは長期間にわたって電気料金の単価を一定に保つことができることだ。東京電力のような一般電気事業者と比較した場合、単価の割引率よりも、電力・ガスの単価が変動するリスク(値上げリスク)を抑えられるメリットが大きいのだという。

 もう1つは、電力源を従来の系統電力と都市ガスの2つに分散することで、BCP(事業継続計画)の確度を高められることだ。同サーバーの出力は1基当たり200kWと大きい。サーバーを増設すれば容量を必要なだけ高めることもできる。必要な設置面積は1基当たり60〜70m2と少なく、屋外に設置できるため、特別な機械室などは不要だ。

 海外では同サーバーを米Adobe Systemsや米American Honda Motor、米Wal-Martなど多数の企業や公共機関が導入済みだ。国内の導入事例としては今回が2カ所目と3カ所目に当たる。

停電が怖い先進研究施設

 慶應義塾大学は湘南藤沢キャンパス(神奈川県藤沢市遠藤)に立地する先進研究施設「Δ館」にBloomエナジーサーバーを導入した(図1)。2014年3月に着工し、約67m2の敷地に1基を設置した形だ*1)

 隣接する大学院「τ館」と合わせて電力需要の90%以上を年間を通じて賄う能力がある。この結果、Δ館とτ館の二酸化炭素の排出量を33%以上削減できる。キャンパス全体の排出量に換算すれば5.5%以上の削減だ。

*1) 同サーバーの寸法は約9.1m×2.1m×2.6mであり、横に長い。重量は19.9トン。8つのモジュールに分かれている。定格発電効率(LHV)は60%を超える(初期値)という。後ほど紹介するソフトバンク本社への導入事例でも以上の数値は全く同じだ。

図1 湘南藤沢キャンパスに設置したところ 出典:Bloom Energy Japan

 湘南藤沢キャンパスは、コンピュータ研究環境に優れ、Δ館はキャンパス内でも特に先進的な研究が進んでいる。このため、停電を避ける仕組みが必要だった。今回の導入により、電源を多重化できたことになる。「Bloomエナジーサーバーは8台のモジュールからなっており、そのうち1つのモジュールはUPS(無停電電源装置)の役割を持っている。従って(コンピュータ)研究の中断を起こさない」(Bloom Energy Japan)。これは寿命の限られたUPS機器を大量に保有する必要がなくなることを意味する。管理・運用コストを引き下げられる。

 Bloomエナジーサーバーは燃料電池であるため、生み出す電力は直流だ。これを交流に変換せず、そのまま使うとより効率が高まる。「電気自動車などへの応用が考えられるため、大学が主体となって直流電流の活用方法を探っていく」(Bloom Energy Japan)。

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