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» 2014年06月20日 15時00分 UPDATE

キーワード解説:2つのダムで巨大な蓄電池になる「揚水発電」

夏の昼間の電力供給で重要な役割を果たすのが「揚水発電」である。日本の電力会社が運営する大規模な水力発電所の半数以上は揚水式を採用している。純粋な水力発電と違って、火力や原子力と組み合わせて発電する。夜間の余剰電力を利用することからから「巨大な蓄電池」とも呼ばれる。

[石田雅也,スマートジャパン]

 東京電力で最も新しい水力発電設備が2014年6月9日に営業運転を開始した。富士山から北に20キロメートルほどの山岳地帯にある「葛野川(がすのがわ)発電所」の4号機だ。出力は40万kWで、1基の水力発電設備としては最大級である。ただし発電する時間帯は1日のうちで電力の需要が大きいピーク時に限られる。

 葛野川発電所は「揚水(ようすい)式」と呼ぶ発電方法を採用している。発電には高低差のある2つのダムを組み合わせる必要があるために、設備全体は大がかりなものになる(図1)。2つのダムの間を地下の水路でつないで、水路の途中に発電所を設置する構造だ。夜のうちに下のダムから上のダムへ水をくみ上げて(揚水)、その水を日中のピーク時に一気に放流して大きな電力を生み出す(発電)。

kazunogawa0_sj.jpg 図1 揚水式水力発電の仕組み。日中に発電して(上)、夜間に揚水する(下)。出典:東京電力

 夜間に大量の水をくみ上げるために火力や原子力の余剰電力を利用する。火力発電や原子力発電は一定の電力を供給し続けることができる半面、需要に合わせて出力を調整することが難しい。夜間に余った電力を廃棄しないで揚水式のくみ上げに使えば、日中の需要が増える時に再び電力として送り出すことができる。ちょうど蓄電池の充電・放電と同じ働きをする。

 蓄電池では充電した電力をすべて放電できるわけではなく、1割くらいは損失する。揚水発電の損失率はもっと大きくて、3割程度の電力を失ってしまう。水をくみ上げるために利用した電力の7割くらいしか発電することができない。発電設備の規模と仕組みを考えれば当然である。

 葛野川発電所の場合には、2つのダムのあいだが東西に8キロメートルほど離れている(図2)。上部の「上日川ダム」から約5キロメートル東側の地下に発電所があって、そこから約3キロメートルで下部の「葛野川ダム」にたどり着く。上部のダムから水路を通って流れる水は、発電機までに落差が714メートルにもなる。その水力で水車発電機を回転させて、最大40万kWに達する電力を発生させる仕組みだ。

kazunogawa3_sj.jpg 図2 「葛野川発電所」の位置。出典:東京電力

 発電設備はダムを除いて地下に造られていて、水車発電機も地下にある(図3)。葛野川発電所では「超高落差ポンプ水車」を採用している。1つの装置で回転方向を変えることによってポンプにも水車にもなり、水のくみ上げと発電の両方が可能だ。このポンプ水車は714メートルという大きな落差に対応できるもので、世界でも最大級の能力を発揮する。

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kazunogawa1_sj.jpg 図3 「葛野川発電所」の内部(上)、上部ダム(左下)、下部ダム(右下)。出典:東京電力

 揚水発電は山岳地帯の地中で大規模な工事を実施する必要があるために、工事期間が長期に及ぶほか、環境保護の問題もあって計画通りに進めることが難しい。1993年に工事を開始した葛野川発電所は1〜4号機(各40万kW)のうち3号機が未完成の状態で、運転開始は2024年度以降にずれ込む。

 東京電力は群馬県と長野県の県境でも、葛野川発電所を上回る規模の「神流川(かんながわ)発電所」を揚水式で建設中だ。1〜6号機(各47万kW)のうち1・2号機は営業運転を開始したが、残る3〜6号機は2022年度以降に営業運転を予定している。火力と原子力に依存する「巨大な蓄電池」の役割は時代の流れで変わっていく。

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