九州に再エネの発電抑制は必要ない、気象データに基づく分析結果で自然エネルギー

九州電力が再生可能エネルギーによる発電設備の接続を保留している問題に関して、国際的な環境保全団体のWWFが独自の分析結果をまとめた。九州の気象データをもとに太陽光と風力の供給力を想定すると、原子力発電所が稼働した状態でも再生可能エネルギーを抑制する必要性は小さい。

» 2014年11月17日 15時00分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

 WWF(世界自然保護基金:World Wildlife Fund)の日本事務所であるWWFジャパンが「検証:自然エネルギー接続保留に関する定量的分析」と題するレポートを11月11日に公表した。九州電力が9月25日から実施している接続保留の問題を取り上げ、独自の分析手法によって接続保留の必要性がないことを示したものである。

 この分析手法の特徴は九州地域の過去の気象データに基づいて、太陽光と風力の1時間ごとの発電量を想定した点にある。太陽光と風力は2014年7月末までに九州電力に接続を申し込んだ1260万kW(太陽光1180万、風力80万)の発電設備を対象にした。さらに供給力には水力や地熱、火力や原子力を含める一方で、需要の調整機能として揚水発電への蓄電と他地域への送電を加えた(図1)。

図1 九州電力の管内で余剰電力の発生が想定される場合の需給状況。出典:WWFジャパン

 原子力の発電規模は再稼働が見込まれる「川内(せんだい)原子力発電所」の1号機と2号機の最大出力(合計178万kW)である。他地域への送電は中国電力に限定して、地域間の連系線の運用容量(259万kW)と最大容量(556万kW)の2つのケースを想定した。電力の需要は2013年度の実績値を使っている。

 かりに中国電力の管内へ送電しないと、九州の電力需要が最も小さくなるゴールデンウイークの4月28日〜5月8日に余剰電力が頻繁に発生することがわかった(図2)。余剰電力を生じないように太陽光と風力による発電を抑制する必要がある。

図2 電力の需要が少ない4月28日〜5日8日の需給状況シミュレーション(中国電力の管内へ送電しない場合)。出典:WWFジャパン

 ところが中国電力へ送電すれば、現実的な運用容量の259万kWの場合には、4月28日〜5月8日の10日間のうち半分の5日間しか余剰電力が発生しない。最大容量の556万kWまで送電できると、余剰電力が発生する日はなくなる。

 月別に見ても、原子力が稼働して中国電力へ送電しない最も厳しい条件では、4月と5月に80時間以上の発電抑制が必要になる。それに対して運用容量の259万kWまで中国電力へ送電すると、発電抑制は月間で20時間以下に収まる(図3)。

図3 再生可能エネルギーの発電抑制が必要な時間(月別)。出典:WWFジャパン

 年間で合計すると「原子力あり・送電259万kW」のケースで、発電抑制が発生するのは16日間の46時間に過ぎない(図4)。固定価格買取制度では1年間に最大30日まで発電設備の出力抑制を求めることが認められていて、その運用の範囲で対応できることになる。

図4 再生可能エネルギーの発電抑制が必要な時間と日数(年間)。出典:WWFジャパン

 ただし政府の委員会が検討中の分析手法を適用すると、発電抑制が必要な日数は大幅に増える。この分析手法は統計理論に基づく「2σ(シグマ)方式」と呼ばれるもので、太陽光と風力の時間ごとの発電量の平均値に標準偏差(σ)の2倍を加える。発電量を多めに見込む安全重視の分析手法と言える。

 WWFジャパンの分析手法のほうが現実に近い結果になると考えられるが、政府の委員会は2σ方式で再生可能エネルギーの接続可能量を算出する方針だ。地域ごとの試算結果を12月中に発表する見通しで、WWFジャパンのシミュレーションとの差がどの程度になるか注目である。

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