節電するほど再生可能エネルギーを増やせない、出力制御の大いなる矛盾法制度・規制

電力会社は地域の需要が供給力を下回る場合に、太陽光や風力による発電設備の出力を制御できる。2015年1月から適用ルールが広がり、太陽光は年間30日を超えて出力制御が可能になった。九州では100日以上に及ぶような試算結果も出ているが、原子力をフルに稼働させることが前提だ。

» 2015年03月05日 13時00分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

 九州をはじめ北海道・東北・四国・沖縄を含む5つの地域の電力会社が、今後の出力制御の見通しを3月4日に政府に報告した。電力の需要が最も小さくなるゴールデンウイークまでに精度の高いデータを公表することが求められていて、それに向けた中間報告である。

 5社の中で最も厳しい予測を出したのが九州電力だ。すでに九州では2015年1月末の時点で、送配電ネットワークに接続できる発電設備の容量を超えている(図1)。接続可能量を超過してから申し込んだ発電設備には新たに「指定ルール」を適用して、年間に30日を超えて出力を制御することができる。その間の電力は買い取りの対象にならないため、発電事業者にとっては売電収入を失うことになる。

図1 九州本土の太陽光発電の接続状況(左)と出力制御ルール(右)。出典:九州電力

 発電事業者に不利益をもたらすルールであることから、該当する電力会社には事前に出力制御の見通しを公表することが義務づけられた。その試算方法は2通りある。1つ目の方法は過去3年間の実績データをもとに算出する。九州電力を例にとると、接続可能量を100万kWオーバーした状態では、2013年度の実績にあてはめると出力制御日数は35日になる(図2)。

図2 太陽光発電設備の実績データをもとに試算した出力制御の見通し。出典:九州電力

 2011年度から2013年度にかけて、家庭や企業の節電対策によって電力の需要は減少してきた。そのために2013年度の出力制御日数は2011年度の2倍以上に拡大する試算結果になっている。今後さらに節電効果が高まっていくと、皮肉なことに出力制御日数はどんどん増えてしまう。再生可能エネルギーの拡大と節電による電力使用量の削減を両立できない矛盾が生じるわけだ。

 しかも2つ目の試算方法を採用した場合には、出力制御日数は格段に増える(図3)。統計的な手法を使って発電設備の出力を想定するもので、実際の出力よりも高めに評価する方法である。九州では接続可能量を100万kWオーバーした状態でも出力制御日数は117日に及ぶ(図3)。発電設備の出力に対して39%に相当する大きな割合だ。

図3 太陽光発電設備の出力想定値をもとに試算した出力制御の見通し。出典:九州電力

 電力会社が出力を制御するためにはシステムの整備が必要で、当面は対象になる発電設備の出力を日単位でゼロに抑える「交替制御」の方法をとる。電力会社から遠隔で出力を制御できるシステムを整備できた時点から、時間単位で制御する「一律制御」へ移行する予定である(図4)。

図4 地域内に分散する太陽光発電設備の出力を制御するイメージ。出典:九州電力

 実際のところ2015年内に出力制御を実施する可能性は、九州以外の地域を含めて極めて小さい。というのも、電力会社は接続可能量を算出するにあたって、原子力発電所をフル稼働させた状態で供給力を想定しているからだ(図5)。

図5 電力会社が想定する原子力発電の供給力。出典:資源エネルギー庁

 九州では再稼働が見込まれる「川内原子力発電所」の2基のほかに、「玄海原子力発電所」の4基を加えて438万kWにのぼる供給力を織り込んでいる。しかし運転開始から30年以上を経過した玄海1・2号機は再稼働に必要な原子力規制委員会の適合性審査を申請していない状態だ。仮に再稼働できるとしても数年先になることは確実で、それまでのあいだは出力制御の可能性を大幅に割り引いて考える必要がある。

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