2020年に電力自給率64%へ、「脱原発都市」を宣言した南相馬市スマートシティ(1/2 ページ)

福島第一原子力発電所の事故によって今なお1万人以上の市民が避難生活を余儀なくされている福島県の南相馬市が、全国で初めて「脱原発都市」を世界に向けて宣言した。原子力に依存しない街づくりを進めるために、再生可能エネルギーの導入と省エネルギーの推進に全力で取り組んでいく。

» 2015年03月27日 10時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 南相馬市が2015年3月25日に告示した「脱原発都市宣言」には、強い決意が込められている(図1)。

図1 南相馬市の「脱原発都市宣言」。出典:南相馬市復興企画部

 太平洋に面した南相馬市(図2)では、東日本大震災によって600人以上にのぼる犠牲者が出た。加えて福島第一原子力発電所の事故による放射能汚染のために、震災前には7万人だった人口が一時的に1万人以下まで落ち込んだ。2015年3月現在でも、まだ1万人以上の市民が市外で避難生活を送っている。

図2 南相馬市の位置と地形。出典:南相馬市復興企画部

脱原発に向けたエネルギービジョン

 南相馬市が原子力に依存しない街づくりに取り組み始めたのは、震災から約1年半後の2012年10月である。「南相馬市再生可能エネルギー推進ビジョン」を策定して、3つの基本方針を掲げた(図3)。「省エネルギーの推進」「再生可能エネルギーの積極的利用」「スマートコミュニティの構築」である。

図3 「南相馬市再生可能エネルギー推進ビジョン」の基本方針。出典:南相馬市復興企画部

 このビジョンの中で再生可能エネルギーの導入目標も明確に設定した。原子力に依存する状況から脱却するために、市内で生み出す再生可能エネルギーの発電量が消費量を上回って、電力の自給率を100%以上に高めることが目標だ(図4)。2030年に自給率100%を目指して、中間点の2020年に64%まで引き上げるための施策をビジョンで提示した。

図4 再生可能エネルギーの導入量と電力消費量の見込み。出典:南相馬市復興企画部

 再生可能エネルギーの中心になるのは太陽光と風力である。南相馬市を含めて福島県の太平洋沿岸は東北地方で日射量が最も多い地域の1つで、太陽光発電の導入ポテンシャルは極めて大きい(図5)。特に遊休状態にある農地や津波で被災した農地が太陽光発電の候補地になる。

図5 再生可能エネルギーの導入ポテンシャル。出典:南相馬市復興企画部

 さらに市の東側の沿岸部と西側の山間部がともに風況に恵まれていて、風力発電に必要とされる年間平均風速5.5メートル/秒を超える地域が広い範囲にある。風力発電の導入ポテンシャルも太陽光発電と同程度の規模を見込める。太陽光と風力を合わせて導入ポテンシャルの20%を発電できれば、2030年の目標値に到達する。

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