転換期を迎えた火力発電、2030年に向けて総量規制を法制度・規制(1/2 ページ)

国を挙げてCO2排出量の削減に取り組む中で、火力発電の抑制が大きな課題だ。環境省は電力業界全体で新たな枠組みを構築するように要請を出しているが、具体的な動きは進んでいない。2030年のエネルギーミックスの目標を決めた今こそ、火力発電の総量規制と高効率化の推進が求められる。

» 2015年06月15日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 今から18年前の1997年6月に「環境影響評価法」が成立した。この法律によって出力が15万kW(キロワット)以上の火力発電設備を新設する場合には、環境に対する影響を評価して必要な対策を講じることが義務づけられた。4段階に及ぶ手続きの各段階で、環境大臣が経済産業大臣や発電事業者に対して意見書を出すことになっている。

 最近の意見書には必ず記載される項目がある。火力発電に伴うCO2排出量を電力業界全体で削減する「枠組み」の構築を求める内容だ。その中でも6月12日に経済産業大臣に向けて提出した意見書は従来よりも踏み込んだ厳しいものだった。山口県で計画中の石炭火力による「西沖の山発電所」に対して、「現段階において是認しがたい」と反対を表明した。

 東日本大震災が発生した2011年度から、電力会社の発電に伴うCO2排出量が大幅に増えてしまった(図1)。こうした状況の中で火力発電設備を新設するのであれば、既存の火力発電設備と合わせて全体でCO2排出量を減らす必要がある。いわば国全体を対象にした火力発電の「総量規制」が求められる。

図1 電源別の発電電力量とCO2排出量(画像をクリックすると拡大して1997〜2003年度も表示)。出典:環境省(資源エネルギー庁などの資料をもとに作成)

 環境省は電力業界を主管する経済産業省に対して、火力発電を対象にした枠組みを構築するように再三にわたって要請を出している。それでも具体的な動きが見られないことから、石炭火力発電所の建設に反対を表明して実行を迫った。電力業界は2つの改革の波によって、早急に対策をとることが避けられない状況にある。

発電効率の低い老朽設備から廃止へ

 2つの改革の1点目は「電力システム改革」である。2016年4月の小売全面自由化に続いて、2020年4月には発送電分離を実施することが決まった。電力会社を含めて各事業者は安い電力を調達する必要があるために、燃料費の安い石炭火力発電の増強に乗り出している。

 ところが国内の火力発電に伴うCO2排出量を見ると、2013年度の時点で約半分を石炭火力が占めている(図2)。このまま石炭火力の拡大が続いていくと、CO2排出量の削減は難しくなる。新たな取り組みとしてCO2を回収・貯留する「CCS(Carbon dioxide Capture & Storage)」の技術開発が進んでいるものの、当面はコストが高くて実用化までには時間がかかる。

図2 燃料別のCO2排出量(画像をクリックすると拡大して1991〜1999年度も表示)。出典:環境省(資源エネルギー庁の資料をもとに作成)

 電力業界には2030年に達成しなくてならない「エネルギーミックス(電源構成)」の目標がある。これが2つ目の改革だ。2030年に国全体のCO2排出量を2013年比で26%削減するために、火力発電の比率を震災前の63%から56%まで引き下げなくてはならない(図3)。発電効率の高い最新型の火力発電設備を増やす一方で、老朽化した設備の廃止をどんどん進めていく必要がある。

図3 2030年のエネルギーミックスの内訳。出典:資源エネルギー庁

 2030年のエネルギーミックスに従って、電力業界全体で運転できる石油火力・石炭火力・LNG(液化天然ガス)火力の総量を決めることができる。一方でCO2の排出量を減らすための火力発電設備のガイドラインがある。経済産業省と環境省が共同で策定した「BAT(Best Available Technology、最新鋭の発電技術の商用化及び開発状況)」と呼ぶ基準で、商用運転中・建設中・実証中の3段階に分けて発電方式や効率を規定した(図4)。

図4 商用運転中の段階にある「BAT」(2014年4月時点、赤字部分は2013年度版からの変更点)。出典:経済産業省、環境省

 BATの基準に合う発電設備を増やしながら、老朽化した発電設備を順に廃止していけば、2030年までに火力発電によるCO2排出量を大幅に減らすことができる。燃料・発電効率・運転開始年の3つの指標をもとに、火力発電所を数多く保有する電力会社10社とJ-POWER(電源開発)、その他の発電事業者に分けて、発電設備の総量を規制することが求められる。

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