特集
» 2015年09月09日 11時00分 UPDATE

自然エネルギー:最強植物のさらに10倍、狙った油を「藻」から得る (1/3)

藻類(そうるい)には、光合成によってバイオマス燃料となる油脂を作り出す能力がある。農作物と比較した場合、油脂の生産能力が高い。東京工業大学などの研究チームは、ある藻類に別の藻類の遺伝子などを導入。リンを欠乏させて、油脂の生産量を増やすことに成功した。加えて、狙った種類の物質を作り出すこともできた。

[畑陽一郎,スマートジャパン]

 「油脂の生産能力が最も高い作物はアブラヤシだ。1ha(ヘクタール)当たり年間5〜6トンのパーム油を得ることができる。われわれの研究グループ*1)が今回対象とした単細胞藻類を利用すると、同面積でこの8〜10倍に相当する40トンの油脂を得ることが可能だ」(東京工業大学大学院生命理工学研究科教授の太田啓之氏)。この試算は実験室の閉鎖空間ではなく、屋外の開放条件を考えたもの。屋外で光合成の効率が下がることを考慮した数字なのだという。

 アブラヤシからは年間5000万トンものパーム油が生産されている。加えて、アブラヤシは大量に栽培されている作物のうち、単位面積当たりの油脂生産量が最も高い。効率が高い作物だといえる。

 それでも現在の石油需要を全てパーム油で代替しようとすると、地球上の全耕地の約4割をアブラヤシ畑にしなければならない計算だ。太田氏のいう単細胞藻類からバイオ燃料を作り出すのであれば、全耕地の4%ですむ。さらに今回の単細胞藻類は海産性であるため、既存の農地を犠牲にする必要がない。

*1) 東京工業大学大学院生命理工学研究科の岩井雅子CREST研究員が研究の多くの部分を実行した。東工大大学院生命理工学研究科の下嶋美恵准教授、堀孝一CREST研究員、佐々木結子東京工業大学地球生命研究所特任助教との共同研究。科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(CREST)「藻類・水圏微生物の機能解明と制御によるバイオエネルギー創成のための基盤技術の創出」研究領域における研究課題「植物栄養細胞をモデルとした藻類脂質生産系の戦略的構築」の一環。太田氏のチームのCRESTにおける研究期間は2011〜2016年度。

油脂量が増える培養条件とは

 図1に今回の研究の対象となった単細胞藻類「ナンノクロロプシス」の光学顕微鏡像を示す。ナンノクロロプシスは油脂を細胞内部に蓄積する。「個々の細胞の中の緑の部分が葉緑体であり、丸く、すこし光の加減で青みがかって見えるのが油滴。実際は透明感のある顆粒だ」(太田氏)。ナンノクロロプシスは細胞重量の50%まで油脂を蓄積できるという。軽油を代替できるタイプの油脂だ。細胞の直径は2〜4μm。

yh20150909bio_cells_450px.jpg 図1 成果を得た単細胞藻類「ナンノクロロプシス」 出典:東京工業大学

 今回成果を得た研究テーマは2つ。1つはナンノクロロプシスが細胞内に蓄積する油脂の量を増やすこと。もう1つは油脂の組成(脂肪酸の組成)を制御することだ。「複数の企業と共同研究を進めており、企業ごとに必要な脂肪酸が異なる。狙った脂肪酸の合成量を増やす研究が今後も必要だ」(同氏)。

まずはモデル藻類で研究

 今回の研究以前に分かっていたことをまとめてみよう。単細胞藻類では「クラミドモナス」がモデル藻類となっており、多数の研究が集中している。こうした中、細胞分裂(増殖)に欠かせない窒素が欠乏した状態でクラミドモナスを培養すると、油脂(トリアシルグリセロール:TAG)の蓄積量が増えることが分かっていた。

 ところが、窒素欠乏条件に置くと、光合成を進める葉緑体の光合成膜(チラコイド膜)に油脂が蓄積して、光合成が妨げられる。油脂を大量に合成するためには効率よく光合成が進まなければならないため、窒素欠乏条件は実用になりにくい。収穫までの時間が長くなるためだ。

 2014年6月には岩井氏が、クラミドモナスを用いた新しい条件を見いだした。窒素欠乏条件と比較すると、リン欠乏条件では油脂を蓄積しつつ、光合成が損なわれにくいのだ。

 次に岩井氏はプロモーターの利用を考えた。一般に、細胞内の遺伝子は単独で機能し始めるのではなく、DNAの上流に存在するプロモーターと呼ばれる領域に転写因子(タンパク質)が結合することで活性化する。プロモーターはいわば遺伝子ごとに存在するオンオフスイッチのような存在だ。

 岩井氏はクラミドモナスがもともと備えているリン欠乏応答性プロモーター(pCrSQD2)を利用した。このプロモーターが動くと、リン欠乏時に生体膜のリン脂質からリンをとり出して、糖脂質に置き換える遺伝子(CrSQD2)が応答する。CrSQD2だけでなく、リン欠乏に応じて他の遺伝子のスイッチを入れるためにも転用できそうだ。

 岩井氏は同プロモーターとクラミドモナスがもつトリアシルグリセロールを合成する酵素(CrDGTT4)を組み合わせることを考え、遺伝子をクラミドモナスに導入した。CrDGTT4単独ではリン欠乏時でも合成能力があまり変わらない(発現が弱い)。ところが、プロモーターと組み合わせることで、油脂の合成量を増やすことができた。

       1|2|3 次のページへ

Copyright© 2016 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.