歴史のまちに小水力と太陽光発電、自然のエネルギーから地域を再生エネルギー列島2015年版(29)奈良(1/3 ページ)

歴史と自然に彩られた奈良県の農村で、再生可能エネルギーを利用した村おこしの取り組みが進んでいる。100年以上も前に造られた小水力発電所を住民が中心になって復活させる計画だ。古墳の近くに広がる池の水面や、地域を流れる農業用水路の上には太陽光パネルが並んでいる。

» 2015年11月04日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 奈良県の中部に、桜の名所で知られる吉野地方がある。日本の歴史上で重要な局面にたびたび登場する場所で、古墳も数多く点在する。自然に恵まれた環境を生かして、「吉野共生プロジェクト」が住民を主体に動き出した。高齢化と過疎化が進む地域にあって、自然や歴史を守りながら産業の振興とエネルギーの自立を目指す取り組みだ。

 エネルギーの分野では、東吉野村で進めている「つくばね発電所」の復活プロジェクトが中核になる。つくばね発電所は101年前の1914年に運転を開始した水力発電所で、村を流れる川から水を取り込んで地域に電力を供給してきた(図1)。

図1 「つくばね発電所」の旧建屋(左上)、水路跡(右上)、導水路(左下)、水管(右下)。出典:東吉野水力発電、東吉野村小水力利用推進協議会

 当時の発電能力は45kW(キロワット)だった。現在から見ると小さな電力だが、村には電灯がともり、周辺の森林から製材業を発展させる原動力にもなった。49年間にわたって稼働し続けた後に、1963年に廃止されている。

 それから50年が経過した2013年に、過疎に悩む地域を再生させるシンボルとして、東吉野村の住民が中心になって発電所の復活プロジェクトを発足させた。古い建屋の隣に新しい発電所を建設して、以前の約2倍にあたる82kWの発電機を設置する計画だ。かつての導水路を利用しながら、新しい水管を通して発電所に水を送り込む(図2)。

図2 「つくばね発電所」の復活プロジェクトを実施する場所。出典:東吉野水力発電

 2016年の春に稼働して、年間に64万kWh(キロワット時)の電力を供給できる見込みだ。一般家庭の使用量(年間3600kWh)に換算すると180世帯分で、東吉野村の総世帯数(980世帯)の2割弱に相当する。建設資金の一部は市民ファンドで集めて、発電した電力の売電収入は村の活性化や環境教育に役立てることになっている。

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