フライホイール+蓄電池、電力の4割を風力で蓄電・発電技術(1/3 ページ)

風力発電など再生可能エネルギーの比率を数割まで高めようとすると、既存の技術だけでは対応が難しい。欧州の島国アイルランドは、2020年までに風力発電の比率を40%に引き上げる。そのために真空中で磁気浮遊するフライホイール技術と、蓄電池技術を組み合わせようとしている。

» 2015年12月14日 13時00分 公開
[畑陽一郎スマートジャパン]

 回転体の運動エネルギーとして電力を蓄える「フライホイール」。化学エネルギーを利用する蓄電池。この2つを組み合わせて系統電力の安定化を図る欧州初の実証試験が、2016年2月にアイルランドで始まる(図1)。

 風力などの再生可能エネルギーによって発電した電力は、系統に短周期の周波数変動と電圧変動を生む。これを抑えることが目的だ。

 蓄電池だけではなく、フライホイールと組み合わせた理由はこうだ。まず、鉛蓄電池で容量を確保する。だが、蓄電池で瞬間的な放電、充電を繰り返すと寿命が短くなる。そこで、摩耗しにくく、素早い応答(出力)ができるフライホイールを導入する。蓄電池の負荷サイクルの軽減に役立つ。

図1 実用化フェーズに入った段階の設置予想図 出典:アイルランドUniversity of Limerick

 実証試験には日本企業2社が協力した。横河電機と日立化成だ。横河電機は2015年12月9日、同実証試験に向けて、電力系統への接続実証試験向け制御システムを納入したと発表した。設備のエンジニアリングと据え付け、試運転調整を担当。「納入とエンジニアリングは全て完了した」(同社)。

 横河電機の子会社である英ヨコガワ・ユナイテッド・キングダムが納入した制御システムは大きく3つある。蓄電量・充放電量を監視制御するレンジフリーコントローラー「FA-M3V」(図2)の他、SCADA(産業制御システム)ソフトである「FAST/TOOLS」、プラント情報管理システム「Exaquantum」である*1)

*1) 「当社は制御事業を進めている。現在は工場の生産ラインが中心であり、発電所のボイラーや石油化学プラントも担っている。今後は再生可能エネルギーの導入が世界的に拡大していくと予想しており、当社の制御技術の市場拡大を見越して受注した」(横河電機)。

図2 制御装置「FA-M3V」の外観 出典:横河電機

 横河電機によれば、2つの蓄電設備は次のような性能を備えている。フライホイール1基の出力は160キロワットであり、これを2基導入した。米Beacon Powerが設計、製造した装置だ。もう1つは日立化成の鉛蓄電池*2)。出力は240キロワット。

 この2つの装置を組み合わせて制御することで、最大出力422キロボルトアンペア、最大入力400キロボルトアンペアという性能を発揮する。

 実証試験に参加し、蓄電システムを開発したアイルランドUniversity of Limerickによれば、最大20分間の周波数・電圧変動に対応することが目標だという。短周期の変動を抑えるシステムだ。

*2) 日立化成は出力変動に適した鉛蓄電池を開発、販売しており、風力発電所向けの納入実績がある(関連記事)。

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